ハイライト
- インフレ圧力が長引き、その結果として利上げ観測が強まる中、日本国債の利回りが急騰しています。
- インフレ圧力により債券の分散投資効果が弱まっており、日本の年金ポートフォリオのリスク/リターン見通しの改善に金が役立つ可能性があります。
10年物日本国債利回りは2024年に大きく上昇しましたが、2025年に入ってもさらに上昇を続けています。日本銀行がマイナス金利政策に別れを告げ、2024年に2回の利上げを実施したことから、国内の利回りは急騰しました1。2025年1月の25bpsの追加利上げにより、政策金利は0.5%となりました。利上げ観測がさらに強まっていることもあり、10年物日本国債利回りは2008年10月以来の高水準に上昇しました(図1)。
こうした市場の観測には正当性があるのでしょうか。ワールド ゴールド カウンシルは、年内に利上げが実施されることはほぼ確実だと見ていますが、そのペースはマクロ経済の状況(主にインフレ率)の変化に左右されるでしょう。もし国内で賃金とインフレ率の上昇スパイラルが強まり、需給ギャップの拡大傾向が続いた場合、持続的なインフレ圧力によって予想以上のペースで利上げが行われる可能性があります。
春闘(主要企業と労働組合の間で行われる日本の賃金交渉)の季節がやってきました。過去数十年見られなかった大幅な賃上げが2年続いたことを受けて、日本労働組合総連合会(連合)などの労働組合は、さらなる積極的な賃上げを要求しています4。
日銀は2月の会合で、「(消費者物価の上昇率は)賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていく」と指摘しています。データからは、主に2022年以降に実現した大幅な賃上げが、インフレ圧力の上昇につながっていることが分かります(図3)。
もしインフレ圧力が継続すれば、日銀が継続的でかなり劇的な金融政策の調整を迫られる状況になるかもしれません。この場合、ボラティリティがさらに高まり、国債のリターンがマイナスになる可能性があります。
図5が示すように、日本株式と日本国債の相関性は、一般的に国内のインフレ圧力の上昇とともに強まるため、株式の分散手段としての債券の有効性が損なわれます。
ここでの教訓は、インフレ見通しを考慮すると、債券と株式の相関が必ずしも負になるわけではないということです。このように変化の激しい市場で分散ポートフォリオを維持しようとすると、動く標的を追っているように感じられるかもしれません。債券がかつてほど分散投資のメリットをもたらさなくなっただけでなく、投資家には、債券に充てるリスク予算の割合を増やすことも求められています。
図6は、債券と株式の相関性が強まるにつれて債券のリスク寄与度が高まることを、日本の60/40のポートフォリオで示しています。
結論として、ワールド ゴールド カウンシルは、投資家は質の高い債券資産の代替、あるいは補完となる資産を検討するべきだと考えます。その1つが金です。
ワールド ゴールド カウンシルの分析によると、金は株式や多資産型のポートフォリオを効果的に補完します。富の蓄積手段であり、システミックリスクに対するヘッジである金は、歴史的にポートフォリオのリスク調整後リターンを改善し、市場ストレス時に短期的なキャッシュフローのニーズを満たすための流動性を提供してきました。
成長への貢献
投資家は昔から金のことを、不確実な時代に利益をもたらす資産と見なしてきました。しかし歴史的に見ると、金は好不況を問わずに長期的にプラスのリターンを生み出し、さまざまな期間で多くの主要資産クラスのパフォーマンスを上回ってきました(図7)。円建て金価格は2024年に40%という驚異的なリターンを記録した後、2025年も、ここまで他の国内資産を上回るパフォーマンスを維持しています。
金には多様な需要源のおかげで際立った底堅さがあるだけでなく、さまざまな市場環境で確実なリターンを実現するポテンシャルがあります。金は、長期的に富を保全し、増大させるための投資としてしばしば利用されますが(反循環的需要)、宝飾品需要やテクノロジー需要がある消費財でもあります(順循環的需要)。
有効な分散投資手段を見つけることは時として難しいものです。実際、市場の不確実性が増すにつれて、多くの資産は相関性を増します。しかし金は異なり、国内株式の下落局面で、金と株式の相関性は低下します。一方、株式の上昇局面では金と株式の相関性が強まるため、投資家が相場に乗り遅れることはありません(図8)。
20 年 | 15 年 | 5 年 | ||||
金を含まない | 金に 5%配分 | 金を含まない | 金に 10%配分 | 金を含まない | 金に 5%配分 | |
年率リタ-ン | 5.5% | 6.5% | 10.8% | 11.9% | 10.9% | 12.9% |
年率变動幅 | 9.2% | 8.5% | 9.1% | 8.2% | 11.8% | 9.8% |
リスク調整後リタ-ン | 0.60 | 0.77 | 1.19 | 1.45 | 0.92 | 1.31 |
最大ドロ-ダウン | -31.2% | -27.4% | -22.9% | -16.8% | -15.3% | -10.3% |
*架空ポートフォリオの詳細は、図9下の注釈を参照。
出所:ブルームバーグ、PFA、ワールド ゴールド カウンシル
日本国債の利回りは急上昇し、インフレ率も過去数年を大きく上回る水準で推移しています。日銀は昨年3月以降で3度の利上げを実施し、政策金利は0.5%に引き上げられました。そしてさらなる利上げが予想されています。特に、本稿で指摘したシナリオでインフレ圧力が強まる場合、利上げの可能性が高まるでしょう。
利回りが上昇し、インフレ率が高止まりする現在、ワールド ゴールド カウンシルでは、歴史的な傾向に基づいて日本国債と日本株式の相関性も強まる可能性があると見ています。実際、ポートフォリオの分散手段としての日本国債の地位は、すでに低下しています。
ワールド ゴールド カウンシルの分析によると、金には、機関投資家が債券と株式の相関性の上昇という波を乗り越えられるように支援するポテンシャルがあります。金は数十年にわたって魅力的なリターンをもたらし、効果的な分散手段となってきました。そして今後も、機関投資家がポートフォリオの目標を達成することに貢献するはずです。ワールド ゴールド カウンシルのシミュレーションでは、架空の日本の年金ポートフォリオにわずかに金を配分するだけでも、リターンが改善してボラティリティが下がることが実証されています。経済的、地政学的な不確実性が広がる中、ワールド ゴールド カウンシルは、金が戦略資産としての輝きを放つものと確信しています。
1詳しくは以下を参照:金融政策決定会合:日本銀行、2025年2月。
2詳しくは以下を参照:金融政策決定会合:日本銀行、2025年3月。
33月25日時点のブルームバーグのコンセンサスに基づく、2025年12月までの日本の政策金利の予測。
4詳しくは以下を参照: Big Spring Wage Hikes at Japanese Companies Again in 2025 | Nippon.com, 2025年3月24日。
5詳しくは以下を参照:金融政策決定会合: 日本銀行、2025年1月。
6詳しくは以下を参照: (BOJ Review) Effects of Demographic Change on Labor Market and Wage Developments : 日本銀行、2025年3月6日。