ハイライト

  • インフレ圧力が長引き、その結果として利上げ観測が強まる中、日本国債の利回りが急騰しています。
  • インフレ圧力により債券の分散投資効果が弱まっており、日本の年金ポートフォリオのリスク/リターン見通しの改善に金が役立つ可能性があります。 

上昇する日本の利回り

10年物日本国債利回りは2024年に大きく上昇しましたが、2025年に入ってもさらに上昇を続けています。日本銀行がマイナス金利政策に別れを告げ、2024年に2回の利上げを実施したことから、国内の利回りは急騰しました1。2025年1月の25bpsの追加利上げにより、政策金利は0.5%となりました。利上げ観測がさらに強まっていることもあり、10年物日本国債利回りは2008年10月以来の高水準に上昇しました(図1)。

 

図1:10年物日本国債利回りは、政策金利とともに数十年ぶりの高水準に*

図1:10年物日本国債利回りは、政策金利とともに数十年ぶりの高水準に*

*2025年3月21日現在の週次データ。 出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

*2025年3月21日現在の週次データ。 
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

利回り上昇の主なドライバーは、日本経済に対するポジティブな見通しとインフレ率の上昇です。日銀の最近の予測によると、日本経済は今後も改善を続ける見通しですが、インフレ率はしばらく高止まりするかもしれません2。2月のコア・インフレ率は前年比で3%上昇し、市場予想を超える水準を維持しました。現在、市場は25bpsの利上げを2回織り込んでおり、2025年末までに政策金利が1%近辺まで上昇すると予想しています(図23

 

図2:強まる日銀追加利上げ観測 

オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場が示唆する日銀政策金利*

図2:強まる日銀追加利上げ観測

*2025年3月26日時点。
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

2回以上の利上げを予想するマクロ経済的根拠

こうした市場の観測には正当性があるのでしょうか。ワールド ゴールド カウンシルは、年内に利上げが実施されることはほぼ確実だと見ていますが、そのペースはマクロ経済の状況(主にインフレ率)の変化に左右されるでしょう。もし国内で賃金とインフレ率の上昇スパイラルが強まり、需給ギャップの拡大傾向が続いた場合、持続的なインフレ圧力によって予想以上のペースで利上げが行われる可能性があります。 

賃金と物価の上昇スパイラル

春闘(主要企業と労働組合の間で行われる日本の賃金交渉)の季節がやってきました。過去数十年見られなかった大幅な賃上げが2年続いたことを受けて、日本労働組合総連合会(連合)などの労働組合は、さらなる積極的な賃上げを要求しています4。  

日銀は2月の会合で、「(消費者物価の上昇率は)賃金と物価の好循環が引き続き強まり中長期的な予想物価上昇率が上昇していくことから、徐々に高まっていく」と指摘しています。データからは、主に2022年以降に実現した大幅な賃上げが、インフレ圧力の上昇につながっていることが分かります(図3)。

 

図3:賃金と物価の好循環がピークに

平均現金収入の前年比と日本のコアCPIの前年比(t+1)*

図3:賃金と物価の好循環がピークに

データに制約があるため、2000年1月から2025年2月までの月次データを使用。
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

需給ギャップ

需給ギャップ、すなわち実際の成長率と平均潜在成長率との差が改善したことも、インフレ率が上昇した重要な要素の1つです。日銀の推計によると、ここ最近の四半期の平均潜在成長率は前年同期比で約0.5%です5。2024年第3四半期以降の実際の成長率がこの数字をはるかに超えているため、需給ギャップは持続的に改善しています(図4)。 

需給ギャップは、労働力と資本の活用具合の要素でもあります。より長期的に見ると労働市場が逼迫する可能性があり6、その場合は労働生産性が過去平均を上回るという現象が起きています。つまり需給ギャップは引き続き改善すると思われます。このことも賃金上昇の後押しになります。 

 

図4:需給ギャップが拡大するとインフレ率が上昇

日本の需給ギャップとインフレ率、四半期平均*

図4:需給ギャップが拡大するとインフレ率が上昇

*データ入手の問題のため、需給ギャップは2024年第3四半期、インフレ率は2024年第4四半期時点のデータを使用。
出所:ブルームバーグ、日本銀行、ワールド ゴールド カウンシル

今後の展望 

もしインフレ圧力が継続すれば、日銀が継続的でかなり劇的な金融政策の調整を迫られる状況になるかもしれません。この場合、ボラティリティがさらに高まり、国債のリターンがマイナスになる可能性があります。

図5が示すように、日本株式と日本国債の相関性は、一般的に国内のインフレ圧力の上昇とともに強まるため、株式の分散手段としての債券の有効性が損なわれます。

ここでの教訓は、インフレ見通しを考慮すると、債券と株式の相関が必ずしも負になるわけではないということです。このように変化の激しい市場で分散ポートフォリオを維持しようとすると、動く標的を追っているように感じられるかもしれません。債券がかつてほど分散投資のメリットをもたらさなくなっただけでなく、投資家には、債券に充てるリスク予算の割合を増やすことも求められています。

図6は、債券と株式の相関性が強まるにつれて債券のリスク寄与度が高まることを、日本の60/40のポートフォリオで示しています。

結論として、ワールド ゴールド カウンシルは、投資家は質の高い債券資産の代替、あるいは補完となる資産を検討するべきだと考えます。その1つが金です。

 

図5:インフレ率が上昇すると、日本の株式と債券の相関性が強まる

日本の株式と債券の相関性の3年間ローリング*

図5:インフレ率が上昇すると、日本の株式と債券の相関性が強まる

*データ入手の問題のため、2000年1月から2025年2月までのデータを使用。日経平均株価指数とBPI日本国債総合指数(円建て)の月次リターンの相関性の3年間ローリングに基づく。 
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

 

図6:相関性が強まると、分散投資効果は弱まる  

日本国債と日本株式の相関性の3年間ローリングと、60/40のポートフォリオに対する日本国債のリスク寄与度*

図6:相関性が強まると、分散投資効果は弱まる

*2005年2月から2025年2月までのデータは、BPI日本国債指数とTOPIXの月次リターンに基づく。ポートフォリオは日本国債40%、TOPIX60%で構成される。リスク寄与度は、ポートフォリオのリスクに対する債券のリスクの寄与度(ボラティリティ×相関係数×ウェイト)として計算する。
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

日本の投資家にとって金が戦略的資産になる理由

ワールド ゴールド カウンシルの分析によると、金は株式や多資産型のポートフォリオを効果的に補完します。富の蓄積手段であり、システミックリスクに対するヘッジである金は、歴史的にポートフォリオのリスク調整後リターンを改善し、市場ストレス時に短期的なキャッシュフローのニーズを満たすための流動性を提供してきました。 
成長への貢献

投資家は昔から金のことを、不確実な時代に利益をもたらす資産と見なしてきました。しかし歴史的に見ると、金は好不況を問わずに長期的にプラスのリターンを生み出し、さまざまな期間で多くの主要資産クラスのパフォーマンスを上回ってきました(図7)。円建て金価格は2024年に40%という驚異的なリターンを記録した後、2025年も、ここまで他の国内資産を上回るパフォーマンスを維持しています。

 

図7:円建て金価格は安定的にリターンを創出*

図7:円建て金価格は安定的にリターンを創出*

2004年12月31日から2025年3月21日までの円建てリターンに基づく。使用したインデックス:日経平均株価指数、MSCIワールド(日本を除く)指数、FTSE日本国債インデックス、ブルームバーグ・グローバル総合インデックス、ブルームバーグ商品指数、LBMA金価格午後決め値。 
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

金には多様な需要源のおかげで際立った底堅さがあるだけでなく、さまざまな市場環境で確実なリターンを実現するポテンシャルがあります。金は、長期的に富を保全し、増大させるための投資としてしばしば利用されますが(反循環的需要)、宝飾品需要やテクノロジー需要がある消費財でもあります(順循環的需要)。

分散メリット

有効な分散投資手段を見つけることは時として難しいものです。実際、市場の不確実性が増すにつれて、多くの資産は相関性を増します。しかし金は異なり、国内株式の下落局面で、金と株式の相関性は低下します。一方、株式の上昇局面では金と株式の相関性が強まるため、投資家が相場に乗り遅れることはありません(図8)。 

 

図8:金と株式の特異な相関性が投資家のポートフォリオを強化

金と日本株式の条件付き相関*

図8:金と株式の特異な相関性が投資家のポートフォリオを強化

*2005年から2025年(3月21日現在)の週次データに基づく。相関係数は、以下の円建ての週次リターンに基づく。「株式」:日経平均株価指数およびS&P500指数、「金」:LBMA金価格午後決め値。上段の棒グラフは、株式の週次リターンが2標準偏差('σ')を超えて上昇した場合の各相関係数。中段の棒グラフは週次リターンが2標準偏差の間にある場合の各相関係数。下段の棒グラフは、週次リターンが2標準偏差を超えて下落した場合の各相関係数。金とS&P500指数の相関性は米ドル建てのリターンに基づく。 
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

ポートフォリオのパフォーマンスの改善

ワールド ゴールド カウンシルが実施した、過去5年、15年、20年の投資パフォーマンスの分析では、典型的な日本の企業年金基金の資産配分をベースに構成した架空ポートフォリオにおける、金のプラスの影響が明らかになりました。 

平均的ポートフォリオに2.5%、5%、7.5%、10%の金を組み入れた場合に、リターンが上昇し、リスクが抑制される可能性があることが分かります(図9)。 

表1:金を組み入れると、さまざまな期間でポートフォリオのリターンが改善し、リスクが減少*

 20 年15 年5 年
 金を含まない金に 5%配分金を含まない金に 10%配分金を含まない金に 5%配分
年率リタ-ン5.5%6.5%10.8%11.9%10.9%12.9%
年率变動幅9.2%8.5%9.1%8.2%11.8%9.8%
リスク調整後リタ-ン0.600.771.191.450.921.31
最大ドロ-ダウン-31.2%-27.4%-22.9%-16.8%-15.3%-10.3%

*架空ポートフォリオの詳細は、図9下の注釈を参照。 
出所:ブルームバーグ、PFA、ワールド ゴールド カウンシル

 

図9:金は平均的年金ポートフォリオのリスク/リターン見通しを改善

架空の日本の企業年金ポートフォリオのリスク調整後リターン* 

図9:金は平均的年金ポートフォリオのリスク/リターン見通しを改善

*架空の企業年金ポートフォリオの構成は、日本国債(17.5%、BPI日本国債指数に基づく)、外国債券(17.2%、ブルームバーグ・グローバル総合(日本を除く)インデックス)、日本株式(10.3%、TOPIX)、オルタナティブ(13.9%、TOPIX不動産インデックス、FTSE PE/VCインデックス、S&Pインフラストラクチャー指数、バークレー・エクイティ・ロング/ショート指数に均等加重)、一般勘定(16.5%、株式、債券、現金、オルタナティブ資産で構成する架空ポートフォリオとして)、ヘッジファンド(5.3%、HFRXヘッジファンド・インデックス)、短期債券(4.3%、BPI日本国債1-3年指数)、金(LBMA金価格午後決め値)。すべての計算は、2005年2月から2025年2月の月次円建て金額に基づく。金のウェイトを増やす際、それに比例して他資産のウェイトを減らす。   
出所:ブルームバーグ、PFA、ワールド ゴールド カウンシル

結論

日本国債の利回りは急上昇し、インフレ率も過去数年を大きく上回る水準で推移しています。日銀は昨年3月以降で3度の利上げを実施し、政策金利は0.5%に引き上げられました。そしてさらなる利上げが予想されています。特に、本稿で指摘したシナリオでインフレ圧力が強まる場合、利上げの可能性が高まるでしょう。 

利回りが上昇し、インフレ率が高止まりする現在、ワールド ゴールド カウンシルでは、歴史的な傾向に基づいて日本国債と日本株式の相関性も強まる可能性があると見ています。実際、ポートフォリオの分散手段としての日本国債の地位は、すでに低下しています。

ワールド ゴールド カウンシルの分析によると、金には、機関投資家が債券と株式の相関性の上昇という波を乗り越えられるように支援するポテンシャルがあります。金は数十年にわたって魅力的なリターンをもたらし、効果的な分散手段となってきました。そして今後も、機関投資家がポートフォリオの目標を達成することに貢献するはずです。ワールド ゴールド カウンシルのシミュレーションでは、架空の日本の年金ポートフォリオにわずかに金を配分するだけでも、リターンが改善してボラティリティが下がることが実証されています。経済的、地政学的な不確実性が広がる中、ワールド ゴールド カウンシルは、金が戦略資産としての輝きを放つものと確信しています。 

脚注

1詳しくは以下を参照:金融政策決定会合:日本銀行、2025年2月。 

2詳しくは以下を参照:金融政策決定会合:日本銀行、2025年3月

33月25日時点のブルームバーグのコンセンサスに基づく、2025年12月までの日本の政策金利の予測。

4詳しくは以下を参照: Big Spring Wage Hikes at Japanese Companies Again in 2025 | Nippon.com, 2025年3月24日。

5詳しくは以下を参照:金融政策決定会合: 日本銀行、2025年1月。

6詳しくは以下を参照: (BOJ Review) Effects of Demographic Change on Labor Market and Wage Developments : 日本銀行、2025年3月6日。

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