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  • 春闘、スタグフレーション、金
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    20 April, 2023


    サマリー

    • 今年(2023年)、日本の春闘で30年ぶりの大幅な賃上げが実現
    • 大幅な賃上げは物価高の苦しみをやわらげる一方で、インフレ圧力を助長する可能性あり
    • 経済成長の鈍化と共に、スタグフレーションリスクが日本の投資家を襲うおそれあり
    • 過去データは、スタグフレーションの間、金が他のあらゆる主要資産を上回るパフォーマンスを残していることを実証;

    全体として、日本の労働者は30年ぶりの大幅賃上げを勝ち取る可能性あり 

    今年(2023年)の「春闘」では、背景にインフレ上昇がある中、賃上げに関しては明るい見通しとなっています。「春闘」とは、毎年3月に大企業と労働組合の間で行われる賃金交渉であり、規模の大小を問わず日本のすべての企業にとって、賃金水準の指針となっています。今年、主要な労働組合と雇用者側は、平均3.8%という賃上げ率で合意しましたが、これは1993年以来の高水準です(図1)。さらに今年は、基本給が平均2.3%引き上げられることになりましたが、これは連合(日本労働組合総連合会)がデータを公開するようになった2015年以降では最高の上昇率です。

    また、春闘の最終的な結果や日本全体の賃上げの実情は、交渉の初期段階とは異なる可能性があるものの、全体的傾向は明らかです。それは、日本の労働者の収入が増加するということです。1月にファーストリテイリングが最大40%の賃上げを発表した後、任天堂やトヨタ、パナソニックなどの企業が、長年見られなかった大幅な賃上げを行っています.  1

    図1:2023年春闘は30年ぶりの大幅賃上げになる

    賃金上昇は物価高の苦しみを多少緩和すると同時に、持続的インフレ圧力を助長する可能性もあり

    今春闘での賃上げが、生活費の急上昇によって日本の家庭が受けている圧力をやわらげるのに有効なことは間違いありません。2月の日本のコアインフレ率は前年同期比で3.5%のプラスで、1982年1月以来の高水準となりました(図2)。日本銀行(日銀)の生活意識に関するアンケート調査によると、今の経済的圧力を感じている世帯は増加しており、90%近くが高インフレに不満を感じており、50%以上が物価の大幅上昇を実感しています。

    図2:日本のインフレ圧力は依然高く、一般家庭は苦しんでいる

    しかし賃金の上昇は、日本のインフレ圧力を助長するおそれがあります。ワールド ゴールド カウンシルが行った分析では、賃金が前年同期比で1%上昇すると、消費者物価指数は0.1%上昇することが判明しました(図3)。前日銀総裁の黒田氏は、日本のインフレ率が目標値を超えて持続的に上昇するためには、3%の賃上げが必要だと述べましたが、賃金の種類については明らかにしませんでした 。  2 

    さらに、OPECプラスが追加減産を発表したことで原油価格が上昇し、また日本がエネルギー資源の90%以上を輸入に依存していることから 、依然として供給主導のインフレ圧力が懸念材料となっています.  4

    図3:日本のインフレ率上昇を助長する賃金

    高まるスタグフレーションリスク

    一方、日本経済の回復は問題に直面しています。たとえば、最近相次いだ銀行破綻が拍車をかける形で、世界的景気後退や金融セクター全体の混乱のリスクが高まったことは、外需に大きく依存している日本経済の回復に重くのしかかってくる可能性があります。そして前述の賃金上昇が持続的経済成長に結び付かなかった場合、スタグフレーションリスクが高まるおそれがあります。 

    成長鈍化とインフレ上昇、すなわちスタグフレーションが生じる可能性がある圧力は、日本の投資家の不安をかき立てることになるでしょう。過去のスタグフレーションにおいて、日本の金融資産のパフォーマンスが低調であったことは明らかな事実です。ところが金は、日本のスタグフレーションにおいて、他のすべての主要資産を上回るパフォーマンスを残しています(図4)。こうした時期の特徴として、市場変動幅の増大やインフレの上昇、経済成長の鈍化に起因する低金利などがあります 。こうした特徴のすべてが、金価格の上昇を支える要因となります。 

    図4:円建て金価格が上昇する様々な経済シナリオ―その1つがスタグフレーション* 

    世界的な景気後退に対する懸念が強まる中、円建て金価格は2023年第1四半期においてすでに主要資産を上回るパフォーマンスを記録しました(図5)。今後、景気後退の可能性が高まるなか、上述したリスクはポートフォリオにさらなる圧力をかけることになるでしょう。リスクとの相関性が低く安全な資産である金は、多くの場合、市場が不安定な期間において、投資家に優れたリターンをもたらし、ポートフォリオを守ります。

    図5:2023年第1四半期に9%のリターンを実現して、主要資産を上回るパフォーマンスを記録した金