⽇本の保険会社は、インフレヘッジとしての⾦の実際的な効果についてさまざまな⾒⽅をしています。⾦が実際にインフレヘッジのツールとして機能しうるという意⾒に賛同する保険会社もいれば、不動産や不動産投資信託(REIT)などの資産や、⽣計に関連する株式のほうが⾃然な選択肢だと主張する保険会社もあります。さらに、⽇本の保険会社のインフレリスクから受ける影響は現在のところ限定的であること、また⽣命保険会社の主⼒商品が定額保険商品、損害保険会社の主要負債が短期商品であるため、現時点におけるインフレヘッジの必要性が限られていることが判明しました。
⾦は、特にスタグフレーションリスクがある局⾯でインフレヘッジ能⼒をもたらす
16 July, 2024
「当社の主要保険商品は定額払いが基本なので、インフレリスクの影響は、EV を計算する際の事業費の部分に限られます」
⽣命保険会社
投資企画部部⻑
我々が過去に検証したように、⾦のリターンと消費者物価指数(CPI)の変化は、歴史的に弱い線形関係にあります。しかしこの 2 つの変数の相関性は、極端な⾼インフレ局⾯で⾮常に強くなります。実際、付録 III から分かるように、CPI の前年⽐変化率が 5%を超える場合、CPI と⾦との相関性の強さは、株式や REIT との相関性を上回ります。
「⾦はインフレヘッジになり得ますが、たとえば不動産投資など、インフレヘッジ効果とキャッシュフローの両⽅をもたらす他の資産クラスのほうを優先します」
⽣命保険会社
資産運⽤部元ポートフォリオ·マネジャー
⽇本の保険会社にとって、現時点でインフレヘッジそのものは⾦投資の根拠として⼗分ではなく、その⽬的で⾦投資を正当化することは難しいかもしれません。これには主に 2 つの要因があります。1 つ⽬として、⽇本は 1990 年代以降、ディスインフレーションあるいはデフレーションの時期が⻑く続き、インフレ率が⾼まった場合に⾦投資が発揮しうるヘッジ効果を確認する機会がありませんでした。2 つ⽬として、前述のように、⻑期保証を提供する⽇本の⽣命保険会社は固定保証を主⼒商品としているため、インフレリスクの影響が⽐較的限定的であるためです。
しかし、⽇本を含め世界中で中央銀⾏のターゲットを上回るしつこいインフレが発⽣する中、⽇本の保険会社はより効果的なインフレリスク対策の検討を迫られる可能性があります。⾦投資が 1 つのソリューションとして機能するはずです。また、⽇銀の⾦融政策の正常化および経済成⻑に対する懸念は、スタグフレーションリスクのようなさらなる不確実性をもたらす可能性があります。我々の分析によれば、このような時期に⾦は輝きます。
「どの企業も ESG ネガティブスクリーニングを実施しており、投資商品は、 ESG の観点で問題がないという認定があれば投資適格となります。しかし、⾦ ESG ファンドに投資しても、ESG 格付けにプラスにはならないでしょう」
⽣命保険会社
資産運⽤部元ポートフォリオ·マネジャー
フォーカス 2: ⾦は ESG のネガティブスクリーニングをクリアするだけでなく、カーボンフットプリントの削減にも貢献できる
近年、世界的に機関投資家の環境·社会·ガバナンス(ESG)意識が⾼まっており、多くの投資家がサステナビリティや責任投資の重要性を理解し始めています。このトレンドは⽇本の保険会社でも⾒られ、各社は投資を⾏う前に ESG ネガティブスクリーニングを実施しています。⽇本の保険会社にとって、⼀番の投資判断基準はやはり財務リターンですが、ESG の重要性は年を追うごとに⼤きくなっています。
我々のインタビューによると、⼀部の保険会社は、⾦採掘業界には⾦鉱⼭による⾃然破壊など、世間的に好ましくないイメージがあるために、⾦投資は ESG ネガティブスクリーニングをクリアできないのではないかと懸念しています。
インタビューの結果、⾦のサプライチェーンについて、また、それが責任をもって運営されていることについて、現時点で理解が不⾜していることは明らかです。ワールドゴールドカウンシルは、責任ある⾦採掘への期待に応えるフレームワーク、いわゆる責任ある⾦鉱採掘原則 (RGMP)によって、保険会社における⾦の ESG ⾯の懸念に対処できると考えます。RGMP は、投資対象の⾦が倫理的に調達されたものであるという確信を投資家に与え、保険会社が ESG ネガティブスクリーニングを確実にクリアできる⾦の特定をサポートします。
さらに、我々が Urgentum と共同で作成した 2021 年 3 ⽉ 28 ⽇付のレポート「⾦と気候変動:投資ポートフォリオの脱炭素化」で明らかにしたように、分散ポートフォリオに⾦を組み⼊れることで、リターンを損なうことなく、ポートフォリオのカーボンフットプリントを効果的に削減することができます。このプラスのインパクトには、⾦にスコープ 3 の排出量がないことが寄与しており、同レポートはこの点を掘り下げています。実際、⾦に 3%を配分する BlackRock Diversified ESG Stable Fund などの注⽬すべき ESG ファンドが証明しているように、ESG に関する⾦のプラスの効果は世界的に認知され始めています。⽇本の保険会社はまだ、ESG だけを理由に資産に積極的に投資するには⾄っていません。しかし、ワールドゴールドカウンシルは、この⾦のプラスのインパクトが、近い将来に⽇本の保険会社が⾦への配分を増やす 1 つのきっかけになりうると考えています。
結論
⽇本の保険会社の⾦投資に対するリスク選好度は歴史的に低く、⽣命保険会社も損害保険会社も、現時点では⾦へのエクスポージャーが⾮常に限られています。業界の専⾨家へのインタビューの結果、資産運⽤の深い専⾨知識を持つ機関投資家の間でさえも、⾦投資の経験が少ないことに由来する情報不⾜や理解の⽋如のため、⾦投資への感覚的あるいは⼼理的なハードルがあることが明らかになりました。
予測できないレフトテールリスクイベントと、地政学的リスクの⾼まりが相まって、投資家にとって資産の分散はかつてなく重要になっています。
ワールドゴールドカウンシルは、⾦投資の背景を成す事実を理解していただく情報を包括的に提供することを通して、難しい環境に直⾯する保険会社が、オルタナティブ資産の 1 つとして⾦を投資ポートフォリオに組み⼊れることによって、ポートフォリオの分散がさらに強化され、保護レベルも⾼まることを認識できると確信しています。