付録 I:⽇本の保険会社の概要
⽇本の⽣命保険会社と損害保険会社の詳細
すでに述べたように、⽣命保険会社と損害保険会社は⽇本の保険資産の⼤半を保有しています1。⽣命保険会社の最⼤⼿は、⽇本⽣命保険、かんぽ⽣命保険、明治安⽥⽣命保険、第⼀⽣命保険、住友⽣命保険です。この伝統的な 5 社が⽣命保険市場全体の 63%を占めます。損害保険会社では⼤⼿企業の優位性がさらに際⽴っており、東京海上⽇動⽕災保険、三井住友海上⽕災保険、損害保険ジャパン、あいおいニッセイ同和損害保険が、損害保険市場の 87%を占めています(表 1 を参照)。
表 1:⽇本の⼤⼿⽣命保険会社と損害保険会社
| | 資産規模 (兆円) | 市場全体に占める シェア |
---|
| ⽣命保険会社上位5 社 |
1 | ⽇本⽣命 | 75.3 | 18% |
2 | かんぽ | 67.2 | 16% |
3 | 明治安⽥ | 43.5 | 11% |
4 | 第⼀ | 37.5 | 9% |
5 | 住友 | 35.7 | 9% |
| 合計 | 268 | 63% |
| 損害保険会社上位4 社 |
1 | 東京海上 | 8.8 | 30% |
2 | 三井住友 | 6.9 | 24% |
3 | 損保ジャパン | 6.6 | 23% |
4 | あいおいニッセイ同和 | 3.2 | 11% |
| 合計 | 26 | 87% |
*データは 2021 年 12 ⽉現在
出所:⽶国⾦融安定理事会、ワールドゴールドカウンシル
⽣命保険会社の資産運⽤
⽣命保険会社は、顧客のニーズに応えるために多様な商品を提供しています。個⼈・法⼈向けの終⾝保険、定期保険、養⽼保険、健康保険、年⾦保険などの商品があります。
⽣命保険会社の⼀般勘定(GA)では、さまざまな保険契約の保険料がひとまとめにプールされ、保険契約者に保証した⼀定の運⽤利回り(予定利率)を満たすために⼀括で運⽤されます。⻑期負債と予定利率の保証が合わさることで、⽣命保険会社は多くのリスク、具体的には市場リスク、信⽤リスク、流動性リスクに直⾯します。これらのリスクを軽減するべく、⽣命保険会社はアセット・ライアビリティ・マネジメント(ALM)を⽤いて投資ポートフォリオを構築しています。
歴史的に、終⾝保険は確実で安定した保険形態と⾒なされており、⽣命保険会社の保有契約価値の⼤半を占めていました。このことは、経済的安定を重視する⽇本社会の⽂化的価値観にも合致しています。しかし、以前は⻑期債券資産の⼊⼿可能性が限られていたため、⽇本の保険会社はしばしば、資産と負債の⼤きなデュレーション・ミスマッチにさらされました。1990 年代初めの⽇本のバブル経済の崩壊後、⻑期⾦利は急激に低下しました(図 8 を参照)。
図 8:⽇本の 10 年物国債の利回りは 1990 年代以降に急落
デュレーション・ミスマッチが⼤きかったために、この急激な⾦利低下は⽇本の保険会社の重い負担になりました。保険契約者に対する義務を果たすことに苦労し、1997 年 4 ⽉から 2001 年 3 ⽉の間に、中⼩の⽣命保険会社が 7 社破綻しました。残った⽣命保険会社は、こうした出来事をきっかけに、リスクをできるだけ軽減する債務対応投資(LDI)をより重視するようになりました。
たとえば、より満期の⻑い⻑期債券資産、主に 30 年と 40 年の⽇本国債の配分を増やしました(図9を参照)。これは、デュレーション・ミスマッチを解消するための保険会社の積極的な努⼒を強調するものです。
超低⾦利環境が何年も続く⽇本では、⽣命保険会社が利回り強化のためにオルタナティブ資産に投資する必要性が⾼まっています。このようなニーズにより、保険会社は、外国株式やその他オルタナティブ資産への配分を増やすことに加えて、グローバルなプライベートエクイティファンドやヘッジファンドに投資しています。
図 9:⽣命保険会社の⻑期資産への配分率は、過去 20 年間で急上昇*
⽣命保険会社上位 4 社の全体の資産満期
2022
生命保険会社の長期資産への配分率は、過去20年間で急上昇*
生命保険会社の長期資産への配分率は、過去20年間で急上昇*
生命保険会社上位4社の全体の資産満期
2003
生命保険会社の長期資産への配分率は、過去20年間で急上昇*
生命保険会社の長期資産への配分率は、過去20年間で急上昇*
生命保険会社上位4社の全体の資産満期
*データは2022年現在
出所:保険会社の開示情報、ワールドゴールドカウンシル
出所:
保険会社の開⽰情報,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
損害保険会社の資産運⽤
損害保険会社の負債の特性は、⽣命保険会社の負債とは異なります。⾃動⾞保険、⽕災保険、海上・貨物保険、傷害保険、その他の損害保険を主⼒商品とする損害保険会社の場合、⼀般的に、保険期間は次の契約更新までの 1 年間だけであり、責任期間がはるかに短くなります。従って、損害保険会社が懸念する主なリスクは、予期せぬ⼤惨事によって流動性リスクが⽣じる可能性です。
損害保険会社は、⽇本国債を含む国内債券に約 23%という⼤きな配分をしており、流動性に対するニーズが際⽴ちます。損害保険会社も⽣命保険会社と同様に、ALM の観点で安全な⽇本国債や信⽤格付けの⾼い社債に投資しますが、利回りを強化する資産に投資する余地とリスク選好度ははるかに⼤きくなります。なぜなら損害保険のほとんどが短期契約で、保証する予定利率がないからです。そのため、1990 年代に⾦利が低下した際の⾦利差益に関する損失の影響は、⽣命保険会社と⽐べて軽微でした。こうした歴史的な視点を踏まえて考えると、⽇本の損害保険会社は、プライベートエクイティファンドなど⽐較的流動性が低く⾼利回りの資産に資本を投資するという点で、より有利な状況にあります。
付録 II:⾦の流動性
⾦の流動性の詳細
すでに述べたように、⾦市場はグローバルで規模が⼤きく、流動性に優れています。⾦の⽇次売買⾼は、他の多くの主要⾦融市場や資産を上回ります(図 10)。
図 10:⾦の売買⾼は他の多くの主要⾦融市場や資産を上回る
平均⽇次売買⾼(単位:円)*
⾦の売買⾼は他の多くの主要⾦融市場や資産を上回る
⾦の売買⾼は他の多くの主要⾦融市場や資産を上回る
平均⽇次売買⾼(単位:円)*
*2023年1月1日~12月31日の平均日次売買高の推計値に基づく。金の流動性には、店頭取引(OTC)の推定値と、先物取引および金を裏付けとするETPに関する公表データを含む。
出所:GoldHub、ワールドゴールドカウンシル
出所:
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*2023年1月1日~12月31日の平均日次売買高の推計値に基づく。金の流動性には、店頭取引(OTC)の推定値と、先物取引および金を裏付けとするETPに関する公表データを含む
このように市場に規模と厚みがあるということは、⼤規模な⻑期保有投資を⾏う機関投資家を余裕を持って受け⼊れられることを意味します。ある市場専⾨家は、以下に詳しく紹介するように、⾦は平均⽇次売買⾼の最⼤約 25%まで取引できると指摘します。
「通常は、市場へのインパクトを最低限に抑えるために、平均日次売買高の20~25%以下に維持することが推奨されます」
ある⾦ ETF マネジャーの、⾦の流動性に関するコメントより
付録 III:⾦のインフレヘッジ効果
⾦のインフレヘッジ効果の詳細
前述のように、多くの保険会社は、すでに REIT や株式などの資産によって、必要なインフレヘッジを実現できていると主張してきました。つまり⾦投資の必要性を感じていないということです。ワールドゴールドカウンシルは、この主張を検証するために、図 11 に⽰すように CPI 変動率と各資産クラスのリターンの相関を⽐較しました。この図では、CPI 変化率が前年⽐ 5%超と 5%以下の期間を 2 つの⾊で表しています。
図 11 から、歴史的に⾦と⽶国 CPI の線形関係が弱いことは明らかです。実際、データセット全体の R ⼆乗線形回帰を計算すると、⽶国の⾦本位制が終了した 1971 年以降の⾦価格の変動のうち、CPI インフレ率の変化との線形関係で説明できるのは 19%にとどまります。しかしグラフの 2 本の回帰直線を⾒ると、この 2 つの変数の相関性が、CPI の変化率が前年⽐ 5%を超える極端な⾼インフレ局⾯で⾮常に強くなることが推測できます。濃⻘の線が表す⾼インフレ時の回帰線の正の相関は、インフレ率が 5%を超える場合に、平均して CPI⽔準が⾼いほど⾦の名⽬リターンが⾼いことを⽰します。さらに FTSE REIT やS&P500 のデータと⽐較すると、極端な⾼インフレ時に⾦が優れたパフォーマンスを発揮することは、他の 2 つの資産タイプにはない⾦特有の強みであることが明らかです。
表 2:3 つの資産クラスを⽐較した主な変数のサマリー
| | ⾦ | FTSE REIT | S&P 500 |
---|
⾼インフレ (ΔCPI>5%) | R2の値 | 0.383 | 0.000 | 0.012 |
回帰直線の傾き | 10.258 | -0.0476 | -0.736 |
実質リターン | 12.4% | -6.5% | -4.7% |
低インフレ (ΔCPI≤5%) | R2の値 | 0.003 | 0.029 | 0.039 |
回帰直線の傾き | 0.751 | 2.627 | 2.733 |
実質リターン | 4.0% | 4.8% | 8.2% |
出所:ブルームバーグ、オリバー・ワイマン、ワールドゴールドカウンシル
図 11:⾦は効果的なインフレヘッジ
⾦、REIT、S&P500 と CPI の相関
⾦:
図 11:⾦は効果的なインフレヘッジ
図 11:⾦は効果的なインフレヘッジ
⾦、REIT、S&P500 と CPI の相関
⽶国 CPI、前年⽐変化率(%)
出所:
リフィニティブ,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
FTSE REIT:
図11:金は効果的なインフレヘッジ
図11:金は効果的なインフレヘッジ
FTSE REIT:
⽶国 CPI、前年⽐変化率(%)
出所:
リフィニティブ,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
S&P 500:
図11:金は効果的なインフレヘッジ
図11:金は効果的なインフレヘッジ
S&P 500:
*金とS&P500については、1971年第1四半期から2023年第1四半期までのデータに基づき、金価格と米国CPIの変動を、それぞれロンドン貴金属市場の金地金価格(米ドル/トロイオンス、ディレイ)と米国全都市消費者物価指数を用いて算出。FTSE REITについては、他に利用可能なデータがないことから、1973年第1四半期から2023年第1四半期までのFTSE Nareit All Equity REIT指数のデータを使用。
出所:リフィニティブ、オリバー・ワイマン、ワールドゴールドカウンシル
出所:
リフィニティブ,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*金とS&P500については、1971年第1四半期から2023年第1四半期までのデータに基づき、金価格と米国CPIの変動を、それぞれロンドン貴金属市場の金地金価格(米ドル/トロイオンス、ディレイ)と米国全都市消費者物価指数を用いて算出。FTSE REITについては、他に利用可能なデータがないことから、1973年第1四半期から2023年第1四半期までのFTSE Nareit All Equity REIT指数のデータを使用。