投資

31 January, 2024

ETFの流出と金地金・金貨需要の小幅な減少を合わせて、年間金投資は合計945トンと10年ぶりの低水準となりました。

  • 世界の金ETF需要はトンベースで3年連続の純減を記録し、世界の運用残高は244トン(150億米ドル相当)減少しました。
  • 年間の金地金・金貨投資は合計1,190トンで、2022年下半期が非常に好調だったことのベース効果もあり、前年比3%の小幅な減少となりました。
  • 2023年は欧州の金投資が急減しましたが、中国の強さによってかなりの部分が相殺されました。
トン 2022 2023   前年同期比変化率(%)
投資 1,113.0 944.9 -15
金地金・金貨 1,222.6 1,189.5 -3
インド 173.6 185.2 7
中国本土 218.2 279.5 28
金を裏付けとするETF -109.5 -244.6 -

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

通年の金投資需要(金地金・金貨、ETFの合計)は2014年以来の最低記録となりました。この減少の大半を占めたのが、世界的に流出が続いた金ETFです。ただし、金価格のパフォーマンスが順調だったために、これらの商品の世界の合計運用残高(AUM)が米ドルベースで6%増加したことには注目するべきです。金地金・金貨投資は、欧州の急激な落ち込み(主に金利上昇と物価高騰危機に起因)が、中国とトルコの力強い伸びを上回ったために減速しました。

しかし「OTCおよびその他」のカテゴリーを含めなければ、投資の全体像は完成しません。同カテゴリーは2023年の金需要の重要な構成要素であり、需要を450トン追加しました。この市場要素は不透明なため推計や帰属の判断が困難です。しかし確実に言えるのは、年間合計の大半が、トルコを筆頭とするいくつかの市場で大幅な在庫の積み増しが見られた第2四半期に生じたということです。この在庫の積み増しは第3、第4四半期まで継続しました。

商品取引所における在庫変動は、第4四半期のOTCのプラスの数字を反映しました。同様に正味managed money ポジションも回復し、年初来高値の近辺で1年を終えました。そして、第4四半期に世界的にETFからの流出が続く中で金価格が過去最高水準に達したという事実は、他セクターで取り込まれていない投資需要がOTCのプラスの数字に大きく貢献したという見方をさらに裏付けます。

 

図5:金ETFの運用残高は、欧州が主導して244トン減少*  

図5:金ETFの運用残高は、欧州が主導して244トン減少*

金を裏付けとするETFの地域別の年間変化、トン

図5:金ETFの運用残高は、欧州が主導して244トン減少*
金を裏付けとするETFの地域別の年間変化、トン
*データは2023年12月31日現在。 出所:ブルームバーグ、企業発表資料、ICEベンチマーク・アドミニストレーション、ワールド ゴールド カウンシル

出所: ブルームバーグ, ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

ETF

世界の金ETF運用残高は2023年に244トン減少(7%減)し、150億米ドル相当の流出となりました。金価格が年間で15%上昇したため、これらの商品の合計運用残高(AUM)は6%増加し、2,144億米ドルになりました。地域別に見ると欧州の減少が最も顕著で、運用残高が180トン減少しました。これは年間パフォーマンスとしては2013年以来の最低記録です。3月の短い中断―米国で小規模な銀行危機が発生し、安全な避難先の需要が急増した時期―を除けば、同地域では年間を通して毎月減少が続きました。金利の急上昇、各国中央銀行のタカ派的姿勢、通貨高、物価高騰などの要素が利益確定を促進したものと見られます。

北米のファンドは2023年に82トン減少しました。流出の原因は主に、米国債利回りの上昇と米ドル高という形で、金保有の機会費用が上昇したことに関連します。6~10月に金価格が横ばい/下落傾向になったことを反映し、この期間に流出が集中しました。この流出は、上半期の大半の期間において、銀行セクターの混乱と金価格の高騰に支えられて生じた流入によって一部相殺されました。また年末にかけて、地政学的懸念が高まり、利下げ観測が強まる中で利回りと米ドルがともに下落したタイミングで生じた流入でも相殺されました。

アジアは2023年に金を裏付けとするETFの運用残高が伸びた唯一の地域となりました。運用残高は19トン増加しました。中国が10トン増と最も好調で、日本(5トン増)とインド(4トン増)でも増加が見られました。世界の地政学的緊張、地域経済の不確実性、そして各国通貨建て金価格の際立ったパフォーマンスが、これらの市場で金ETF需要の増加に拍車をかけました。「その他地域」の運用残高には1トンのわずかな減少が見られました。トルコでは猛烈なインフレ圧力と現地通貨安が強い関心を後押ししました(3トン増)。しかしオーストラリアと南アフリカでそれぞれ2トン減少したため、この増加分が帳消しになりました。

欧州のファンドからの流出は2024年初めの数週間も継続し、北米に上場するファンドは11~12月の2ヵ月の小休止を経て再び減少を始めました。株式の好調なパフォーマンスと、利下げの道筋とタイミングをめぐって変化し続ける観測が、ETFの動きを決めそうです。一方、アジアのファンドでは小幅な流入への回帰が見られました。

世界中の金を裏付けとするETFについて、12月および2023年通年の地域別の動きの詳細なレビューについては、金ETFに関する最新の月次コメンタリーをご覧ください。

 

図6:金地金・金貨投資の変化は東西で対照的* 

図6:金地金・金貨投資の変化は東西で対照的*

地域別の年間金地金・金貨需要、トン
図6:金地金・金貨投資の変化は東西で対照的*
地域別の年間金地金・金貨需要、トン
*データは2023年12月31日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

金地金・金貨

金地金・金貨需要は2023年に3%減少し、1,190トンでした。下半期はベース効果が主な原因で前年を下回ったため、上半期の伸びが打ち消されました。2022年下半期は、下半期として過去10年で最も好調でした。この期間の同セクターの需要は、東西の投資の動機/トレンドが相殺しあったこともあって、驚くほど安定していました。そして2023年も例外ではありませんでした。欧州の投資需要が急減する一方、アジアの主要市場では成長が見られました。

 中国

中国の年間金地金・金貨投資は280トンに達し、新型コロナウイルス感染症の打撃を受けた2022年から28%増の力強い回復となりました。第4四半期が35%増の83トンだったため、年間需要が押し上げられました。実際、下半期の164トンという需要は中国の下半期記録です。

投資需要は年間を通して旺盛で、第4四半期も引き続き金にスポットライトが当たりました。現地金価格の好調なパフォーマンス、特に人民元安のおかげで現地金価格のパフォーマンスが国際金価格を上回ったことが、2023年を通して投資家を魅了しました。他の国内投資、特に不動産と株式のパフォーマンスが期待外れだったことを考えると、金価格の強さはとりわけ魅力的でした。中国の株式市場の年間リターンはマイナスで、上海総合指数は10月に1年ぶりの水準に落ち込みました。

一方、PBoCは14ヵ月連続で金を追加しており、投資資産としての金の価値を認める世論が強固になりました。

これらの要因をきっかけにした現地メディアの大々的な報道も、2023年の金地金・金貨人気の上昇に貢献しました。一方、第4四半期は年末の贈答需要がさらなる後押しになったようです。

今後について、個人の金投資は2024年も堅調に推移すると思われますが、好調だった2023年の再現とはならないかもしれません。世界の中央銀行は金準備をさらに積み増す可能性が高く、金地金・金貨の投資家の関心を引き続けるでしょう。そして地政学的緊張の高まった環境が、国内経済シナリオの脆弱さと相まって、安全な避難先の需要をさらに高めるはずです。

しかし中国の経済成長が減速した場合、特に現地金価格の高さが同時並行で続いた場合は、家計の金購入予算が制限されるかもしれません。これはワールド ゴールド カウンシルの年間見通しの潜在的シナリオの1つです。そのような状況になれば、投資家は傍観者として、より良い参入機会を待つことを選ぶかもしれません。

インド

インドの金地金・金貨投資は前年比7%増と前年の減少から一転し、185トンに達しました。第4四半期の需要は67トンで、5年間の四半期平均を64%上回りました。

金価格に下向きの調整が入ったこと、特に10月の下落後の急反発によってポジティブな投資パフォーマンスへの期待が再確認されたことで、第3、第4四半期に強力な投資反応が生じました。このことは金を裏付けとするETFの投資家の関心とも合致し、インドで上場する商品の年末の合計運用残高は過去最高の42トンまで増加しました。同様にソブリンゴールド債も投資の増加が見られ、12月のトランシェには過去最高の購入申し込みがありました。

インドの国内経済は好調を維持しており、成長率の上昇が予測されていることは家計消費にとって良い兆候です。特に、ポジティブな投資家センチメントが持続していることから、金地金・金貨需要には恩恵があるはずです。とはいえ金価格がさらに急騰すれば、利益確定売りが活発化したり、投資家がより安値での―少なくともより安定した水準での―投資機会を待って傍観することを促したりして、短期的な逆風が生じる可能性があります。

中東とトルコ

トルコの金地金・金貨投資は、好調な第4四半期で過去最高の1年を締めくくりました。年間の需要は160トンに急増し、非常に好調だった2022年の合計の約2倍となりました。

金需要を急増させた原動力は1年を通して一貫していました。それは容赦のない消費者物価のインフレ(非公式な推計によれば100%以上)と、その帰結としての大幅なマイナスの実質金利、そして代替となる投資オプションが非常に限られていたことです。地政学的緊張はもともと高まっていましたが、第4四半期には敵対行為がより自国に近い場所で発生し、その影響がさらに大きくなりました。

第2、第3四半期に金に関心を持つ富裕層(HNW)のトレンドが伝えられていましたが、第4四半期も非常に似通った要因でトレンドが維持されました。この需要の要素は「OTCおよびその他」のカテゴリーに分類されますが、2023年のトルコの金投資状況の特徴の1つとして注目に値します。

国内金価格のプレミアムは1年の大半の期間で高い状態が続いていましたが、輸入地金の継続的な流入を制限する新規制が導入されたことを受けて、第4四半期にさらに急上昇しました1

トルコの現地金価格は涙が出るほどの高値で推移していますが、それでも投資需要は強さを維持する見込みです。これは3月末の統一地方選挙を前に、リスクと不確実性の雰囲気が増しているためです。同様にプレミアムも、少なくとも選挙結果が判明する第1四半期末までは高水準を維持する見通しです。

2023年の中東地域の投資需要は、年間最高記録となる114トンに達しました。好調だった2022年の合計需要から、さらに23%増加しました。この伸びの最大のシェアを占めたのはエジプトで、金地金・金貨需要は30トンに急増し、従来の記録だった2022年の19トンを大きく塗り替えました。投資需要が急増した要因は、主に国内の危機的な経済状況、とりわけ急激なエジプト・ポンド安が消費者に深刻な打撃を与えたことです。第4四半期は、国内の大統領選挙と中東地域における戦争勃発が需要に勢いを与えました。ただし第2四半期末に小型地金の売上税が導入されたことで需要が若干抑制され、下半期の需要は前年をわずかに下回りました。

中東のその他の地域では、イランとUAEが年間投資需要の伸びに貢献しました。UAEは1年を通して着実に前年を上回り、年間需要は11トン(前年比34%増)と10年ぶりの高水準に達しました。第4四半期は、安全な避難先を求める動きが旺盛な需要を支え続けましたが、価格の高騰を受けて一部の投資家が調整待ちで投資を控えたことが、多少の抑制になりました。

イランはより小幅な成長で、2023年の金地金・金貨需要は6%増の44トンでした。とはいえ年間合計としては健全な水準であり、過去5年と10年の年間平均を優に超えました。2023年の需要を主に牽引したのは持続的なインフレ圧力で、第4四半期には安全な避難先の需要も加わりました。年末にかけては価格高騰が需要を抑制し、これが現地価格プレミアムの低下に反映されました。しかし高インフレ率と地政学的リスクの高まりという持続的な状況を背景に、需要の旺盛な状態が続きそうです。

欧米

2023年の米国の金地金・金貨投資は過去3番目の高水準で、需要は5%増の113トンでした。第4四半期は前年同期比の増加に回帰しました。地政学的緊張の高まりと利下げ観測の変化を受けて、購入意欲は10~11月に集中し、12月は価格上昇の中で始まった利益確定売りが目立って増加しました。 

このことは年末にかけてプレミアムがかなり急激に低下したことに表れています。

長期的に見れば需要は健全な水準を維持しており、個人投資家は、最近の高値に慣れてきたこともあって持続的な購入意欲を示しています。しかし2023年には売却の活発化も顕著に見られ、購入偏重だったここ2~3年間を経て、より「ノーマル」な水準の双方向活動が復活しました。

米国造幣局が発表した1月の数字によると、年初4週間のイーグル金貨の売上は182,000オンスで、2023年1月の月次売上が163,500オンスだったのと比べると順調な1年の始まりとなりました 2

欧州の金地金・金貨投資は2023年に崖から転落するように急減しました。需要は59%減の127トンで、16年ぶりの低水準でした。減少の理由は1年を通して一貫していました。金利上昇によって、貯蓄がより競争力のある選択肢となり、住宅ローンの支払いの負担が増えたこと。物価高騰危機によって投資資金が圧迫されたこと。そして高値あるいは過去最高値の金価格が売り戻しを促したことが挙げられます。

例によって同地域の全体像を決めたのはドイツです。国内の景気低迷と、エネルギーコストなどの家計への持続的な圧力を受けてセンチメントが落ち込んだことから、投資は47トンに減少しました。第4四半期は地政学的緊張やリスクイベントに対する懸念が一時的に高まりましたが、需要に有意な影響は与えませんでした。

 

図7:欧州の急減の大半を占めたのはドイツ* 

図7:欧州の急減の大半を占めたのはドイツ*

金地金・金貨需要の前年比変化の上位および下位5ヵ国、トン
図7:欧州の急減の大半を占めたのはドイツ*
金地金・金貨需要の前年比変化の上位および下位5ヵ国、トン
*データは2023年12月31日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

アセアン市場

本レポートの対象となるアセアン市場の中で、2023年に最も力強いパフォーマンスを示したのはタイでしたが、歴史的に見ると需要は比較的抑制された状態にとどまっています。タイの金地金・金貨投資は2023年に13%増加し、33トンでした。しかしコロナ禍前の平均需要と比べると、かなり低調な数字です。2015~2019年の年間投資は平均63トンでした。

2023年の大半の期間で現地通貨の価値の下落が続いたことが、脆弱な経済状況の中では特に、需要の支えとなりました。しかし近年の需要の低調さは、オンライン投資プラットフォーム人気の高まりからも説明できるかもしれません。こうしたプラットフォームはより多くの短期的な金取引活動を可能にし、「購入して保有」のアプローチが犠牲になるからです。

インドネシアとベトナムの2023年の需要はどちらも前年比で小幅に減少し、それぞれ20トン(5%減)、40トン(2%減)となりました。ベトナムの投資は、投資家が価格調整に反応した第4四半期に上向きました。しかし需要の増加に加え、利用できる金投資商品が限られているため、公式SJCテールバーのプレミアムが約600~700米ドル/オンス近辺までさらに上昇したことが報告されています。 

その他アジア諸国

日本の2023年の金地金・金貨需要は2トンの小幅な減少でした。利益確定売りが続くなか、健全な購入意欲も見られました。現地金価格が過去最高値を更新する中でわずかな売り越しにとどまったことは、ポジティブな展開です。インフレと現地金価格の上昇により購入意欲が刺激されて、比較的若い投資家層で需要が発生しました。

韓国の需要は2023年に10%減少し、15トンとなりました。しかし第4四半期には、期初の金価格の急激な調整に投資家が乗じたため、力強い増加が見られました。 

オーストラリア

オーストラリアの2023年の金投資需要はほぼ半減し、わずか14トンにとどまりました。金利の上昇と高いインフレ率が物価圧力を生み出す環境が、この減少の主な要因だと思われます。

脚注

  1. トルコは12月に、企業が12トンの金延べ棒輸入割り当てを回避することを防ぐ様々な規制変更を発表しました。KMTSUYGULAMASINAILISKINUSULESASLAR.pdf (hmb.gov.tr)Dahilde İşleme İzni Kapsamında Kıymetli Maden İthali Hakkında.pdf (ticaret.gov.tr)www.borsaistanbul.com/files/duyuru-22177-TR.pdf

  2. 2024年1月26日時点。

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