通年の見通し
2023年は、前回の通年見通しにいくつかのプラスの驚きをもたらしました。中央銀行は2022年に匹敵する成果を再現し、低調だったリサイクルに対して、宝飾品とリテール投資は予想外に高水準を維持しました。一方で、ETFは長引くネガティブな状況を払拭できませんでした。金価格が正味で2桁のリターン(米ドル換算)をあげたことから、不透明なOTCやその他のカテゴリーにも、見えないながら投資家の健全な需要があったことがうかがわれます。こうした展開の根底には、米国の景気後退の回避、継続する中国経済の弱さと資産ボラティリティ、そして世界的な地政学的緊張が緩和しなかったことがメインテーマとして流れていました。
2024年に向けて、米国経済がソフトランディングするという一致した見方が(少なくとも)今のところ順調に推移しています。端的に言うと、ワールド ゴールド カウンシルはソフトランディングの影響について、金にとって中立~ややプラスに働くと見ています。その要因は以下の通りです。
- 長期金利はやや低下するも、依然として高水準:金にとって中立~プラス
- 米ドルが横ばい:金にとって中立~プラス
- 経済成長がトレンドを下回る:金にとってややマイナス
- インフレ率の低下:金にとってややマイナス
- 高い地政学的リスク:金にとってプラス
しかし、短期的に経済とインフレのデータが良好だとしても、景気後退リスクは依然としてかなり高いと思われます。
投資:見える弱さ、見えない強さ
世界の金ETFは、年初に2023年10月と同様の流出が見られ、1月はこれまでのところ北米のファンドが欧州のファンドよりも積極的に売っており、守勢で1年をスタートしました。これはリバランスによる可能性があるため、ワールド ゴールド カウンシルではトレンドの始まりとは見なしていません。ワールド ゴールド カウンシルのモデルによると、株式市場の力強さと緊縮的な政策状況を受けて、引き続き小幅な流出が見られる見込みです。しかし株式センチメントはピークに達しているようで、調整入りは遠くないかしれません。さらに、政策金利の低下が予想され、量的引き締めが年末までに緩和、あるいは場合によっては終了すると予想されていることが、いずれもETF需要にプラスに働く可能性があります。
OTC取引は、部分的に先物のポジショニングと類似する場合があります。Managed Moneyの買建玉の正味残高は、第4四半期に過去3年間の最高水準近くにまで増加しました。中央銀行と一部OTCの需要とともに、このセクターも世界の金ETFへの流入がない中での金価格の押し上げに貢献してきましたが、短期的な調整が必要かもしれません(図2)。さらに、近年の米国の選挙年には、おそらくイベントリスクの影響を軽減する目的で、買建玉正味残高が減少するパターンが見られます。しかし年平均ベースの買建玉正味残高は決して拡大しておらず、全体的なセンチメントは決して上辺だけのものではないことから、2024年の投機筋の関心はポジティブになるでしょう。加えて、地政学的な緊張や政治環境と、第2四半期に起こりうる利下げが、この動機を支えるはずです。
宝飾品と同様に、大半の新興市場の金地金・金貨需要は価格に敏感なので、記録的な高値は同セクターの2024年の成長を抑制するでしょう。しかし、宝飾品と同様に、金地金・金貨の底堅さはこれまでの予想を上回りました。このことは中国に特に当てはまり、代替手段の欠如や通貨変動に対するヘッジに加えて、PBoCの継続的な金購入が顕著な推進力となりました。ただ、価格は1つの要因に過ぎません。景気減速は名目ベースの購入能力を削ぐ可能性がありますが、もしインフレ率が―特に、インフレが長引いている国々で―買い手が実質ベースで豊かになったと感じられる程度に低下すれば、それが緩和策になるかもしれません。
米国の金貨需要は、かなり一貫性のある過去データに基づくと、選挙をめぐる不確実性と選挙結果の両方の要因で押し上げられる可能性があります。民主党が勝利した場合、典型的には選挙後に購入量がかなり増加します。しかしワールド ゴールド カウンシルでは、いずれにせよリスクが高いため、結果にかかわらず需要に恩恵があると見ています。ワールド ゴールド カウンシルの分析によると、政治の影響を最も受けやすいのが金貨需要であり、次に投機的な先物、地金需要、そして最後にETF需要と続きます。
加工需要:宝飾品は持ちこたえ、AIがテクノロジーを救う
2023年を特徴づけたのは、宝飾品とテクノロジーの需要の驚くべき底堅さです。ワールド ゴールド カウンシルは、2023年の水準が2024年も繰り返される可能性が高いと考えます。インドの宝飾品需要は、引き続き快調なエンジン音を響かせている経済の恩恵を受けるでしょう。ただし物価高の逆風が強まる可能性があります1。中国の金宝飾品需要は安定を維持しそうです。価値の保全を求める消費者に支えられますが、予想されている婚礼数の減少、高い金価格、消費者が軽量商品を選ぶ傾向はいずれも逆風であり、課題となるでしょう。
欧米の需要は、物価高騰危機と金価格の上昇に屈する恐れがあります。しかしインフレの緩和が続けば、年末に向けて実質所得が需要の回復に貢献するという見込みがあります。中東の需要もいくらか鈍化する見込みで、宝飾品よりも投資商品が選好される傾向が続くでしょう。
テクノロジー需要は第4四半期に素晴らしい伸びを見せ、2023年のサプライズ要素の1つになりました。大手チップメーカーのガイダンスは、主にAIの貢献によって2024年が半導体の当たり年になることを示唆しています。そのためテクノロジー需要は、価格の高さや世界経済の減速から、ある程度守られそうです。
中央銀行:流れは続く
中央銀行に関するワールド ゴールド カウンシルの前回の予測は、慎重すぎたことが明らかになりました。特定の銀行で着実な購入が見られただけでなく、トルコが2023年初頭の大規模な売却から一転しました。このことから、全般的に、ワールド ゴールド カウンシルの当初の見立てよりも購入計画に永続的な性質があることがうかがわれます。従ってワールド ゴールド カウンシルは、全体として2024年も力強い購入が行われると予想します。そして過去2年間の値動きを見る限り、中央銀行の購入が長期平均を超えていることは、確固とした価格支持要因になる可能性が非常に高いと思われます。
供給:生産量は最高記録更新の可能性があるが、リサイクルは反応に乏しい
北米、アジア、オーストラリアで新規鉱山の操業開始が多数計画されており、2024年の生産推計が増えそうです。鉱石グレードの上昇も成長を支えるでしょう。物価が上昇する中でも、産金会社は全体としてコスト上昇を効率的に抑制しており、このことは高水準での生産の維持につながるはずです。金鉱山生産については、予期せぬ混乱によるサプライズは悪い方に偏ることが一般的であり、ワールド ゴールド カウンシルの予測はこの点を考慮しています。
リサイクルは、価格上昇に対して、ワールド ゴールド カウンシルが期待したほど反応しませんでした。中国のリサイクルは価格上昇と経済環境の悪化の両方に反応しましたが、インドで市場に出せる在庫が枯渇したことが、特に年末にかけて価格のインパクトを打ち消しました。中東では、地政学的な状況の不透明さを背景に、金保有者が売却を躊躇しました。ワールド ゴールド カウンシルはこの点を考慮し、2024年に価格がリサイクルに与えるインパクトを、極端な価格高騰がない限りは穏やかなものと予想します。中国経済の持ち直しも、リサイクル量の増加を和らげる可能性があります。全体として、2023年の合計から小幅に増加することが見込まれます。