供給

31 January, 2024

2023年の総金供給量は、鉱山供給量とリサイクルがともに増加したため、前年同期比3%の増加となりました。

  • 年間鉱山生産量は、2018年の過去最高をわずかに下回ったものの、前年同期比1%とほぼ横ばいでした。
  • 2023年、世界のヘッジポジション正味残高は若干増加して190トンでした。
  • 2023年のリサイクル金の供給量は9%の増加で、同年の年間平均金価格が過去最高に達したにもかかわらず、従来の記録である2009年の供給量を30%下回りました。
     
トン 2022 2023   前年同期比変化率(%)
総供給量 4,751.9 4,898.8 3
鉱山生産量 3,624.8 3,644.4 1
産金会社のネットヘッジ -13.1 17.0 -
リサイクル金 1,140.1 1,237.3 9

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

2023年の総供給量は前年同期比で3%増加し、2年連続で緩やかな増加となりました。年間生産量の3,644トンは、生産の中断など大きな問題がほとんどなかったことにより、2018年以来の高水準になりました。金価格の上昇により、リサイクル量は9%増加し、1,237トンとなりました。暫定推計では、生産会社のヘッジポジション正味残高がわずかに増加すると見られますが、第4四半期に満期を迎えるポジションが大量にあることは、金鉱業界の年末時点でのポジションに対する信頼感が通常よりも低くなることを意味します。

鉱山生産量

2023年、鉱山生産量はさらに増加して1%増の3,644トンになりましたが、2018年に樹立された記録である3,656トンにはわずかに及びませんでした。上半期が好調だったことで、2023年に世界の金鉱業界は新記録を更新するだろうと予想されていましたが、第1と第2四半期に見られた勢いが下半期には影を潜めてしまいました。2023年第4四半期の鉱山生産量は前年同期比2%減の931トンとなり、下半期の生産量は予想を下回る結果となりました。このことと、2023年上半期に若干の下方修正が加えられたこととにより、世界の鉱山生産量は2018年を若干下回りました。

年間生産量が増加したのは、2022年に長期にわたる労働争議の後に生産が回復した南アフリカ(前年同期比で14トン、15%の増加)、ロシア(前年同期比で6トン、2%の増加)、マリ(前年同期比で5トン、4%の増加)、ブラジル(前年同期比で4トン、4%の増加)、およびブルキナファソ(前年同期比で3トン、3%の増加)でした。

年間生産量が減少したのは、国内紛争により人力小規模生産が中断されたスーダン(前年同期比で8トン、10%の減少)、インドネシア(前年同期比で8トン、6%の減少)、メキシコ(前年同期比で7トン、6%の減少)、およびオーストラリア(前年同期比で7トン、2%の減少)でした。

 

図11:2023年の鉱山生産量は2018年の記録をわずかに下回った*

2023年の鉱山生産量は2018年の記録をわずかに下回った*

金の年間鉱山生産量、トン
2023年の鉱山生産量は2018年の記録をわずかに下回った*
金の年間鉱山生産量、トン
出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項 *データは2023年12月31日現在。

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

2023年第4四半期は、4ヵ国の鉱山によって、世界の生産量が押し下げられました。

  • メキシコの鉱山生産量はペニャスキート鉱山でのストライキが主な要因となり、前年同期比で21%減少しました。労働争議は10月に終息しましたが、第4四半期の生産は大きな影響を受けました。
  • ロシアの鉱山生産量は、2023年上半期に向けて増産を行ったオリンピアダ鉱山と、クポル鉱山の両方で予測生産量が引き下げられたため、前年同期比5%減となりました。
  • マリでは、フェコラ鉱山が露天掘りのフェーズ6に移行したため、第4四半期の生産量は前年同期比で3%減少しました。
  • 米国の鉱山生産量は、ボールド・マウンテン、カーリン、フォート・ノックスの各鉱山における減産が、コルテス鉱山、ターコイズ・リッジ鉱山、ロチェスター鉱山の増産を上回ったことで、前年同期比3%の減少だったと推定されています。 

4ヵ国の鉱山による増産では、上記の減少を相殺することはできませんでした。

  • トルコでは、オクサット鉱山で増産が続けられており、それに伴い運営会社のセンテラが2023年の生産指針を引き上げたため、生産量は前年同期比で21%増加しました。
  • パプアニューギニア(PNG)では、リヒア鉱山でフェーズ14A拡張工事が本格化し、2023年第3四半期のプラント閉鎖からの操業再開が実現して、鉱山生産量が前年同期比14%の増加となりました。
  • カナダでは、ブルースジャック鉱山、マカサ鉱山、メドウバンク鉱山の産出量増加とマジノ鉱山の増産のすべてが、前年同期比12%の増加に貢献しました。
  • ブルキナファソでは、ボンボレ鉱山とマナ鉱山の生産が増大したことにより、生産量が前年同期比で12%増になると見込まれています。 

オセアニアは第4四半期に前年同期比がプラスとなった唯一の地域ですが、増加量はわずか1トンでした。これは、パプアニューギニア(リヒア鉱山)とニュージーランド(ワイヒ鉱山)の生産が若干ながら増加したことによるものです。他の地域はすべて、2023年第4四半期に前年同期比でマイナスになると予想されており、アフリカと中南米はそれぞれ前年同期比で6トン減と5トン減で最大の落ち込みとなります。

年間生産能力の(新規操業と操業再開を合わせた)合計が13トンを超える4つの鉱山スタートアップ企業が先頃、生産を開始しました。カナダのスリーピング・ジャイアントの年間平均生産量は約1トンで、マレーシアのバウ・ゴールド・プロジェクトは年間約3.6トン、フィジーのトゥバツは年間約2.4トンを生産する予定です。最も重要な新しい鉱山会社はオーストラリアのベルビュー・ゴールドで、年間平均生産量は6.2トンになる見込みです。

金の採掘コストは2023年第3四半期(データ入手可能な最新の四半期)も増加を続けましたが、コスト増鈍化の兆しが見えました。全維持生産コスト(All-In Sustaining Cost:AISC)の平均値が、第3四半期に1,343米ドル/オンスの過去最高を記録しました。前年同期比はプラス5%でしたが、AISCの上昇が続き、前四半期比は3%となりました。全般的インフレの影響で燃料や電力、労働力、消耗品のコストが前年を上回ったため、すべての地域で採掘コストが上昇しましたが、生産者の現地通貨の対米ドル相場が下がったことで若干相殺されました。産金会社のマージンは、主に金価格の高騰によって2023年第3四半期に9%増加し、同四半期の平均は1,977米ドル/オンスとなりました。

 

図12:リサイクル量を押し上げた記録的金価格*

リサイクル量を押し上げた記録的金価格*

年間の金リサイクル量、トン数、および年間平均金価格
リサイクル量を押し上げた記録的金価格*
年間の金リサイクル量、トン数、および年間平均金価格
*データは 2023 年 12 月 31 日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブ GFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

 産金会社のネットヘッジ

2023年、業界の産金会社ヘッジポジション正味残高合計は17トン増加して190トンに達したと推定されます。このレポートの発表後に各鉱山会社が自社のポジションを公表すれば、確認が可能になります。ワールド ゴールド カウンシルでは、第4四半期に満期を迎える約50トンの先物売りとオプションのポジションがあることを確認しています。これらがいずれも置き換えられなかった場合、2023年にヘッジポジション正味残高の合計は約10トン縮小することになります。ただし、約半数は置き換えられると予想されており、その結果、世界のヘッジポジション正味残高はわずかに増加することになります。

過去1年間は、金採掘会社はヘッジ活動の拡大に消極的であるという推測を試す有益なテスト期間となりました。記録的高値となった金のスポット価格と、(世界中で金利が大きく上昇したことにより)金の先物プレミアムの魅力が高まったことで、金利が実質的にゼロだった過去10年間に比べて、先物売りの魅力がはるかに高まったように思えます。もちろんこのことは、金価格が下落し、鉱山会社が収益性の維持に不安を感じるようになった場合に、より広範なヘッジに戻ることを排除するものではありません。

リサイクル

ほぼすべての通貨で金価格が過去最高を記録したことで、2023年のリサイクル金の供給量は前年同期比9%増の1,237トンとなりました。リサイクルは、4四半期すべてで前年同期比がプラスとなり、なかでも米ドル建て金価格が四半期平均で過去最高まで上昇した2023年第2四半期に最大の増加(前年同期比で13%増)となりました。

第4四半期のリサイクルは、前年同期比8%増の313トンでした。前年同期比で約4%減となった南アジアを除くすべての地域で、リサイクル量の前四半期比と前年同期比が増加しました。

ワールド ゴールド カウンシルでは、四半期ごとのリサイクルが金価格の短期的上昇に敏感に反応することをたびたび指摘してきましたが、この点については2023年も該当することは間違いありません。金価格が上昇すると消費者は金を売って現金化することから、各四半期のリサイクルの前四半期比の変化は、四半期平均金価格の前四半期比の変化方向を反映するものとなります。2023年でリサイクルが前四半期比で減少したのは第3四半期だけであり、金の四半期平均価格は前四半期比で2%下がりました。

2023年に平均金価格が過去最高を記録したにもかかわらず、リサイクル金の供給量が2009年の最高記録を30%近く下回ったことは注目に値します。ワールド ゴールド カウンシルでは、リサイクル金の供給量が少なかった点には2つの大きな理由があると考えています。第一に、世界的な金融危機やユーロ圏の危機とはきわめて対照的に、古い宝飾品の投げ売り情報がほとんどなかった点です。パンデミック時には、消費者や企業に大規模な財政支援が行われて雇用が守られました。またロシアのウクライナ侵攻後、欧州ではエネルギー補助金が支給され、エネルギー価格の高騰から市民を守ることに寄与しました。第二に、前回金価格が過去最高を記録したのはわずか10年前のことで、2008年から2012年にかけてリサイクルが急増して、それまでの蓄積が一掃されたことで、消費者による古い/壊れた/不要な宝飾品の蓄積が多くなかったことが考えられます。

 

図13:2023年第4四半期における金のリサイクルの地域差*

2023年第4四半期における金のリサイクルの地域差*

2023年第4四半期における地域別金リサイクル量の変化、トン

2023年第4四半期における金のリサイクルの地域差*
2023年第4四半期における地域別金リサイクル量の変化、トン
*データは 2023 年 12 月 31 日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブ GFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

リサイクルのための宝飾品供給量が限られている点については他の要因も関わっています。中東からの供給量が依然、限定的です。裕福な中東諸国には、価格が上がったときに金を売るインセンティブもニーズも存在しないものと思われます。また、エジプトやイランなどの経済的問題に直面している国々では、ハードカレンシー(交換可能通貨)の代替手段や魅力のある国内投資がほとんどない場合、資産保有者が最後まで保持しようとするのが金であることは事例証拠から明らかです。同様の反応は、トルコの消費者にも見ることができます。

注目すべきもう1つの要因が、金価格は名目ベースでは記録的高値にあるものの、最近の世界的な高インフレの広がりによって、米ドル建ての金スポット価格は実質価格の過去最高値を多少下回っていることです。長い間、インフレ率がかなり低く抑えられているため、2年間にわたって高インフレ率が金の実質価格に与えた影響は看過されがちです。

しかし、リサイクル金の供給量が期待されたほどには増加しなかった国がある一方で、中国とインドでは増加が見られました。2023年、中国のリサイクル量は過去最高を記録し、2023年第4四半期はそれまでの四半期最高値とほぼ同じになりました。宝飾品加工業者や小売業者から出る大量のスクラップに加え、中国の宝飾品需要が非常に旺盛であるという純然たる事実は、個人所有の金宝飾品在庫が急速に増加していることを意味します。所有する量が多ければ多いほど、価格が上昇したときには、より多くをリサイクルに回すことが可能になります。インドの場合、理由はもっと単純でした。価格の上昇によってリサイクルが増加した一方で、ゴールドローンによる借り入れも増加したのです。

2024年初め、金価格が2,000米ドル/オンス超で推移し、リサイクル供給は良好であるとの報告が届いています。しかし、過去に見られたように、リサイクル量は金価格と経済環境に非常に敏感に反応するものであり、後者は依然として不確実な状況にあります。詳しくは「今後の見通し」セクションをご覧ください。

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