- 世界の金地金・金貨需要は、すでに好調だった 2021 年の合計からさらに 2%増加し、1,217 トンになりました。
- 2022 年の金 ETF の運用残高は、第 1 四半期に増加したものの、年間では 110 トン減少しました。ただし売り越しの規模は 2021 年の 189 トンを大きく下回りました。4
- 年間投資は 10%増加して 1,107 トンでした。
31 January, 2023
2022 年は、金の多様な需給要素が互いにバランスを取り、投資資産として比類のない安定的なパフォーマンスを実現できることを示す手本のような 1 年となりました。
ETF 投資は 2021 年から改善したものの低調でした。一方、金地金・金貨はリテール購入が力強く、2022 年の金需要はわずかに増加しました。ETF に関する心理の弱さは、COMEX における資金運用会社の建玉残高にも反映されて、2022 年下半期はネットロングとネットショートの間で揺れ動きました。金投資は地政学的な状況に支えられたことに加えて、欧米市場を中心とする数十年ぶりの高インフレ率と、その結果生じた FRB など各国中央銀行の積極的な利上げの影響を受けました。金地金・金貨の投資家は高インフレ率に注目し、インフレヘッジ目的で金の安全性を求めました。これに対し金 ETF の投資家は、世界各国の中央銀行の大幅な利上げと米ドル高騰に伴う金の機会費用の上昇に注目し、特に下半期に運用残高を減らしました。
金現物を裏付けとする ETF の運用残高は 2022 年に 110 トン(3%)減少しました。これは 30 億米ドルの流出に相当します。この種の商品に対する需要は、2022 年の最初の 4 カ月に地政学的リスクが注目を浴びたことを受けて急増しましたが、その後、積極的な利上げが話題を独占し始めると徐々に減退しました。
2022 年末時点の世界の金 ETF 運用残高は、前年より 110 トン少ない 3,473 トン(運用資産残高では 2,030 億米ドル)でした。ところが低コスト金 ETF はこのトレンドに逆行したようで、2022 年の正味需要は合計 48 トンでした。5
最も大きな需要減少が見られたのは北米で上場するファンドです。北米のファンドの運用残高は、最も大規模で流動性の高い 2 つのファンドの縮小を主な理由として、2022 年に 75 トン(30 億米ドル)の減少を記録しました。同地域の 2022 年の需要は、1 ~ 4 月の合計が 188 トンと序盤は力強かったものの、その後の月は利回りの上昇と米ドル高が金の大きな重しとなりました。欧州のファンドは年末にかけてマイナス圏に落ち込みました。欧州の金 ETF 需要は年初から 11 月までは前年比でプラスを維持しましたが、最終的に前年を 1%下回りました(15 トン、9 億4,300 万米ドル相当の減少)。6
欧州の ETF 需要が比較的底堅かったのは、地理的にロシア・ウクライナ戦争に近いために安全な避難先への流れが促進されたこと、また同地域の経済成長をめぐる懸念が深まったことが理由だと思われます。
アジアで上場する金 ETF については、中国が需要の減少を助長しました。アジアで上場するファンドの 2022 年の需要は 21 トンのマイナスでした。これは中国のファンドの金の運用残高が大幅に減少し、それを日本とインドのファンドの需要で完全には相殺できなかったためです。アジアのファンドでは、北米や欧州のファンドで見られた第 1 四半期の需要の急増が見られず、その代わりに、現地金価格の高さが利益確定売りを引き起こしました。このことは特に中国で顕著であり、同国の投資家は 2022 年のほとんどの期間で、より戦術的なアプローチを取りました。その他の 地域のファンドの運用残高は、通年で 0.2 トンの微増となりました。7
2022 年の下半期は需要が特に力強く、2013 年以降で初めて、 2 四半期連続で 340 トン近辺を維持しました。世界的なインフレ環境を受けて富の保全が必要になったことが、投資目的の金購入の主な動機となりました。
中国の第 4 四半期の金地金・金貨需要は前年同期比 20%減の 61 トンで、通年では 24%減の 218 トンでした。これは主に、新型コロナウイルス感染症関連の規制が 1 年を通して実施されたことが原因です。通年のリテール投資需要は過去 10 年平均の 269 トンを 18%下回り、同じくロックダウンの影響を受けた 2020 年の 199 トンに近い水準です。中国の投資家は 2022 年のほとんどの期間で自宅を出られず、一般的にオンラインではなく対面取引で行われる金現物の購入ができませんでした。第 4 四半期にロックダウン政策が解除されて、通常の投資活動を再開する道が開かれましたが、新型コロナウイルス感染症の急拡大が多くの投資家の動きを妨げたため、需要の不振が続きました。
それでも 2022 年を通して、金に対する投資家の基本的な興味は高い状態が続きました。地政学的リスクと現地通貨安を背景に、金投資商品は投資家のレーダーに映り続けており、「金地金」というキーワードの百度(バイドゥ)指数の平均は 2021 年を上回りました。そして中国人民銀行の四半期調査によれば、中国の世帯の貯蓄意欲は過去最高水準に達しており、その一部が金に向かう可能性がありそうです。
投資家が新型コロナウイルス感染症の流行の波を克服し始めると、春節を控えた 2023 年 1 月前半に金投資に対する興味が再び高まりました。ワールド ゴールド カウンシルでは、中国が再始動して景気が回復することと、商業銀行が金現物商品の販促活動を継続していることが追い風となり、2023 年の残りの期間で中国の金地金・金貨需要が回復すると予想しています。投資家の記録的な貯蓄傾向を考えると、安全な避難先としての金の魅力も引き続き投資家を引き付けるでしょう。
インドの年間の金地金・金貨需要は 7%減の 174 トンでした。第 4 四半期の需要は 56 トンと健全だったものの、極めて好調だった前年同期の水準に届かず 28%減となったことが、年間需要の減少につながりました。
第4四半期初めのダシェラとダンテラスの祝祭の期間は、金地金・金貨の需要が旺盛でした。8 しかし婚礼シーズンが始まると―― 特に小売業者が利益率の高い商品の販売を望んだこともあって― ―金宝飾品に関心が移り、投資需要は二の次になりました。また、 11 月の金価格の急騰を逃した多くの投資家は、投資を控えることを選びました。業界関係者との議論によると、主に比較的価格が低い(たとえば 20 グラム以下の)商品が購入されており、これは贈答品に需要が集中していることを示唆します。
2023 年のインドの金地金・金貨需要を展望すると、目下のところ国内金価格の高さと株式市場の上昇という逆風にさらされています。またインフレ率の低下により、インフレヘッジという金の役割も薄れるかもしれません。しかし、農村部の需要の回復が
2023 年の金地金・金貨需要の支えとなる可能性があります。
トルコの年間金投資は 38%増の 85 トンで、ワールド ゴールドカウンシルのデータシリーズにおいて 3 番目の高水準となりました。第 4 四半期の需要が前年同期の 7 倍を超える 29 トンに達したことが、年間需要を押し上げました。この大幅な伸びは、基準となる 2021 年が比較的低調だったことによるものですが、絶対値で見ても四半期の数字は強力であり、過去 5 年間の四半期平均の 17 トンを大きく上回りました。
同国内では極端なインフレが生じ、実質金利が大幅なマイナス金利に陥っていることが、引き続き投資需要を牽引しました。需要は 10 月が特に旺盛で、続く 11 月と 12 月は、国内金価格の高騰が制約となって若干減速しました。
中東地域全体の金地金・金貨需要は 2022 年に 42%増加し、 78 トンと 4 年ぶりの高水準に達しました。同地域は 5 四半期連続で大幅な 2 桁成長となりましたが、これは主に、イランとエジプトの第 4 四半期の好調さの結果です。
イランでは、激しいインフレと安全な避難先となる資産の必要性が金需要を刺激して、第 4 四半期の需要が 10 トンに増加しました(前年同期比 33%増)。とはいえ、金取引に重量と数量の上限を課す新たな規制は需要の抑制要因になりました。エジプトでは 3 月に続いて 10 月下旬にエジプト・ポンドの(計画的な)切り下げが実施されたことが、安全な避難先とインフレヘッジの需要を後押ししました。その結果、第 4 四半期の需要は前年同期比で 2 倍以上に増加し、年間需要は 83%増の 4.4 トンになりました。
欧米の 2022 年の金現物商品の投資需要は、過去最高を記録しました。米国と欧州の金地金・金貨購入量は合計 427 トンで、これまでの最高記録だった 2011 年の 416 トンを上回りました。
米国の個人投資家は 2022 年に 113 トンの金を購入しました。これは年間合計としては 2021 年と 2009 年に次ぐ 3 番目の記録です。2021 年を 3%下回りましたが、これは 2022 年の需要に何か弱さがあったというよりも、2021 年が過去最高だったことを反映したためです。第 4 四半期の需要は 28 トンで、 2021 年初め以降の四半期の平均購入ペースとほぼ一致しました。
米国の投資需要は、年末にかけて、それまでの熱狂的な買いが収まって落ち着いたペースになったようです。そして報告によれば、売り戻しは引き続き限定的でした。このことと供給の改善が相まって、プレミアムは低下しました。
2023 年は幸先よくスタートしました。米国造幣局の報告によると、イーグル金貨とバッファロー金貨の月初来の売り上げは、1 月の 3 週が終わった時点で合計 6 トンを超えました。欧州の年間リテール投資は前年比 14%増の 314 トンでした。 300 トン を突破したことは、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズの中では 2 回しかありません。第 4 四半期の金地金・金貨需要は前年同期比 21%増の 81 トンで、それまでの
高インフレ率、景気後退懸念(株式への影響を含む)、ロシア・ウクライナ戦争が、引き続きドイツと東欧諸国(特にポーランド)で金購入を後押ししました。
第 4 四半期には、現地通貨建ての金価格も投資の流れを促しました。11 月から 12 月はユーロ建てとスイス・フラン建ての金価格が比較的安定していたため、現地通貨建て価格が米ドル建て価格の上昇に追随して回復する可能性に期待する投資家の金購入が促進されました。そして実際に、1 月はそのような価格動向が見られます。
2022 年は、ゴールド・デマンド・トレンドが追跡するアセアン市場のほとんどで、リテール投資の増加が見られました。唯一の例外がタイであり、年間の金地金・金貨需要がわずかに減少して 29 トンとなりました。しかしタイの第 4 四半期の投資需要は旺盛 で、前年同期比 8%増の 10.8 トンと、2019 年第 1 四半期以来の高水準を記録しました。
ベトナムでは第 4 四半期のリテール投資が 48%増加して 9 トンとなり、年間需要は前年比 32%増の 41 トンと好調でした。インフレ率の上昇、通貨の切り下げ、大手不動産会社による不正な社債発行、株式市場の低迷など、複数の要素がこの結果に寄与しました。この旺盛な需要を受けてプレミアムが拡大し、500
~ 550 米ドル/オンス近辺で推移しました。
東南アジアのその他の地域でも、リテール投資需要が増加しました。インドネシアの年間の金地金・金貨需要は前年比 8%増の 21 トンとなり、シンガポールとマレーシアではそれぞれ 32%と 27%の増加が見られました。
日本では 2022 年に金地金・金貨の売り越しが生じました。これは現地金価格の高さと、高齢世代が長期保有していた金の現金化を望んだことを反映したものです。売却は上半期に集中しました。第 4 四半期は日本のインフレ率が上昇して 41 年ぶりの高水準になったことを受けて、投資は 2 トンの純増となりました。韓国では、景気が低迷し、投資家心理が落ち込む中で投資家が現金保有を選好したことから、リテール投資が鈍化しました。年間の金地金・金貨需要は 19%減の 17 トンでした。
世界経済の停滞、高インフレ率、負債過多の市場で金利が上昇することに対する懸念を背景に、金投資の意欲はかなりの力強さを維持しました。リテール投資需要は、印象的だった第 1 四半期の水準以下にとどまったものの、4 トン強と堅調でした。2022 年全体のリテール投資需要は 20 トン弱で、前年を 2%下回りました。
ワールド ゴールド カウンシルでは金を裏付けとする低コスト ETF の定義を、米国と欧州で上場し、金現物を裏付けとし、年間運用手数料やその他の費用(為替手数料など)が 20 ベーシスポイント以下のオープンエンド型投資信託としている。
6 トンベースの需要の変化はマイナスだが、ファンドの流れ――投資家が所定期間にファンドに投入した、あるいはファンドから回収した資金の額(米ドルベース)――は、同年の資金流入時の金価格の高さ(流出時の金価格の低さとの相対値)を反映してプラスである。
詳しくは ETF methodology note(ETF 測定方法についての注意)を参照のこと。
「その他」の地域には、オーストラリア、南アフリカ、トルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が含まれる
ダシェラは毎年ナヴラトリの終わりに開催される祝祭。ナヴラトリは毎年 9 夜にわたり行われるヒンドゥー教の祭りで、善が悪に打ち勝つことを祝う。2022 年のダシェラは 10 月 5 日だった。ダンテラスはディワリ祭の初日。2022 年のダンテラスの祝祭は 10 月 22 日から 10 月 23 日に行われた。