金宝飾品需要は 2022 年にやや軟化しましたが、コロナ前の需要水準(2019 年は 2,127 トン)をほぼ維持しました。この数字は、1 年を通して金価格が大きく上昇する期間が何度かあり(インドやトルコなどの国では過去最高を記録)、中国がロックダウンや新型コロナウイルス感染症の流行で低迷する中で達成されました。世界の経済成長が減速しており、インフレ率の高進は多くの市場で生活費の危機を招くため、2023 年も需要にとって厳しい状況が続くでしょう。
中国
中国の 2022 年の金宝飾品需要は 15%減の 571 トンで、10年間の年間平均を 113 トン下回りました。
年間需要は 1 年のほ とんどの期間で、当局のゼロコロナ政策を受けて繰り返された主要都市のロックダウン、そして 12 月に同政策が突如撤回された後は感染者急増の影響を受けました。年間で現地金価格が 10%上昇したことも、金宝飾品消費の重しとなりました。
第 4 四半期の需要は前年同期比 28%減の 127 トンと、第 4 四半期としては 2009 年以来で最も低調でした。中国経済がこうした新型コロナウイルス感染症をめぐる混乱の打撃を受けた結果、第 4 四半期としての所得の伸びが 2003 年以来の最低を記録しました。
中国の需要は相対的に弱いものの、消費者には興味深いトレンド が確認されました。
新型コロナウイルス感染症に関連する不確実 性と人民元安のために、価値保存の必要性が高まったことから、投資という目的が金宝飾品の購入を顕著に牽引しました。その結果、価格の透明性が高く人件費の低い準投資商品の 24 金宝飾品の人気が高まりました。
一方、伝統的金宝飾品を含むプレミアム商品が、引き続き市場シェアを拡大しました。これらの製品は、独創的なデザインが消費者の関心を集める一方、利幅の大きさが宝飾品店の販売努力も刺激しました。
2023 年はこの先、中国の金宝飾品需要が徐々に上向くものと予想されます。
ブルームバーグの予測中央値によると、中国の
2023 年の GDP 成長率は 4.8%と前年を大きく上回る見通しで、2 これは金宝飾品需要の改善を意味するはずで す。業界関係者との話からは、2023 年の春節の休暇に向けて宝飾メーカーが多忙だったことがうかがわれます。しかしワールド ゴールド カウンシルの見通しに含まれる警告には根拠があります。そして中国の人口が2022 年に85 万人減少したとの報道は、同業界の長期的な課題を表している可能性があります。2
2022 年のインドの金宝飾品需要は 2%減少しましたが、絶対量としての年間総需要は好調でした。
年間需要は 600 トンで 現地金価格の高値での推移/上昇という逆風にたびたび見舞われたにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症発生前の 10 年間の年間平均とほぼ一致しました。 第 4 四半期の需要は前年同期比 17%減少で、一見すると大幅な減少ですが、これは過去最高だった 2021 年第 4 四半期と比較したためです。220 トンという四半期需要は、2000 年にさかのぼるワールド ゴールド カウンシルのデータの中では 4 番目の高水準でした。
しかし 11 月と 12 月の金価格の上昇により、勢いが削がれました。ワールド ゴールド カウンシルの関係者の話によれば、12月半ば以降は顧客が金対金の交換を好み、需要が実質的に停止しました。事例証拠からは、こうした交換の量が同四半期にほぼ倍増したことが分かります。そして価格の高さはリサイクル量の増加も促しました。
インドの第 1 四半期の見通しは混沌としています。第 1 四半期 に婚礼に適した吉日が多い(2022 年第 1 四半期の 11 日に対 し 2023 年第 1 四半期は 28 日)ことは需要にプラスになるはずです。主なカリフ作物の価格が比較的高いことも同様です。しかし国内金価格の高さと長引く農村部のインフレが、引き続き需要の逆風になるでしょう。
中東とトルコ
2022 年の中東地域の宝飾品需要は、15%増加して 190 トンでした。主にアラブ首長国連邦とサウジアラビアの需要が大幅に伸びたことが、地域のパフォーマンスに貢献しました。しかし第 4 四半期になると、高値で上昇する金価格に主に反応する形で勢いが衰えました。
トルコの年間宝飾品需要は 8%増の 37 トンで、パンデミック以前の水準を回復しました。第 4 四半期の需要は 10 トンと前年同期比で 32%増加し、好調だった第 3 四半期の需要と合わせて下半期合計は 2017 年以来の高水準となりました。第 4 四半期には現地金価格が上昇しましたが、消費者物価の急上昇により、投資目的が前面に押し出されました。
このことは、無地の金宝飾品が好調な一方、ダイヤモンド宝飾品の需要が引き続き低調だったことに表れています。
米国と欧州
2022 年の米国の宝飾品需要は 4%減少しましたが、144 トンと堅調でした。前年同期比の減少分の大半は下半期に起因しており、その要因として、公的支援策の終了の影響が続いたことや、消費者支出が贅沢品からサービスへと移ったことなどが挙げられます。第4 四半期には国内の景気後退の脅威も徐々に顕著になり、これが前年同期比 5%減の 51 トンという結果に表れました。
それでも 2022 年の需要はパンデミック以前の水準を上回っており、前年同期比の数字も、極めて好調だった 2021 年と比較したものです。米国の雇用市場の堅調さはプラスの要因でしたが、クリスマスの贈答品も第 4 四半期の需要の増加を支えました。
2022 年の欧州の宝飾品消費は 4%増の 71 トンで、パンデミック以前の水準をほぼ回復しました。第 4 四半期の需要は前年同期比 5%減の 31 トンで、6 四半期連続していた成長が止まりました。しかしこの減少の大半は、経済の不振により生活費の危機の影響がより深刻だった英国で、需要が急減したことが原因です。
アセアン市場
2022 年は東南アジア市場のほぼすべてで宝飾品需要が増加しました。
先頭を走ったのは 51%増のベトナムで、年間需要は 18 トンと 4 年ぶりの高水準になりました。現地金価格が第 4 四半期にやや下がったこと、給与カットが元に戻り所得水準が上がったこと、 GDP の力強い成長が戻り消費者の自信が増したことなど、いくつかの要因が影響を与えました。
タイでは前年比の宝飾品消費が 17%増加し、9 トンを超えました。年間需要はコロナ前の水準と比べれば低調ですが、四半期需要は比較的健闘しました。第 4 四半期は 8 四半期連続で前年同期を上回り、約 3 トン(15%増)と、2019 年第 4 四半期以来の高水準でした。全体として、需要は引き続き、経済の再開と観光業の回復の恩恵を受けました。さらに、9 月と 10 月に現地金価格が下落したことが、婚礼シーズンと年末の祝祭シーズンを前に宝飾品小売業者の在庫補充を後押ししました。
東南アジア最大の宝飾品市場であるインドネシアの宝飾品需要は、前年同期比 5%の小幅な増加が見られ、2022 年の需要は 28 トンに達しました。消費者心理は改善したものの、インフレ率の上昇によって消費者支出がいくらか減少しました。
その他アジア諸国
2022 年の日本の年間宝飾品消費は 15 トンで、ほぼ横ばいでした。第 4 四半期の需要は 4 トンで、好調だった 2021 年第 4四半期の 5 トンから 15%減少しました。現地金価格の上昇とインフレへの回帰が消費者心理を損なったと見られます。日本の需要は、新型コロナウイルス感染症を受けて極めて低調だった 2020 年と比べれば回復しましたが、パンデミック前の典型的な水準である年間 16 ~ 17 トンには依然として届きません。
韓国の年間金宝飾品需要は 18%減少し、2022 年の宝飾品消費量は 15 トンになりました。予想を上回る景気の減速が消費に影響を与えました。家計所得の減少と負債の増加という環境下で、消費者が贅沢品の支出を減らしたために、宝飾品需要の勢いが失われました。
オーストラリア
オーストラリアの年間宝飾品需要は 30%増加しましたが、その理由の 1 つはベース効果です。2021 年は新型コロナウイルス感染症をめぐる厳しい規制により需要が非常に低調でした。とはいうものの、第 4 四半期の需要が前年同期比 22%増加して 3トンを超えたことが支えとなり、年間需要は 11 トンと堅調でした。