中央銀行

30 July, 2024

今期(2024 年第 2 四半期)、中央銀行の金需要は引き続き堅調でしたが、過去数四半期に比べると減少しました。

  • 今期の中央銀行の金需要は合計 183 トンで、前四半期比で39%減、前年同期比では 6%の増加でした6。1
  • 2024 年上半期のネット購入は 483 トンで、これまでの記録である昨年同期の 460 トンから 5%増加しました。
  • ワールド ゴールド カウンシルの 2024 年中央銀行金準備高調査(2024 Central Bank Gold Reserves Survey)の結果は、この分野の金需要が今後も旺盛であることを裏付けています。
トン2023年第2四
半期
2024年第2四
半期
前年同期比%
中央銀行&その他機関173.6183.46

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

 

今年初めに記録破りのスタートを切って以降、中央銀⾏の⾦購⼊は第 2 四半期に⼊って急減し、前四半期⽐マイナス 39%の 183 トンとなりました。しかし、これでも購⼊量としては⾮常に健全なレベルで、過去 5 年間の同⼀四半期平均である179 トンを 3%上回りました。さらに、プラス需要が続く⻑期トレンドも拡⼤しています。第 1 四半期の買い越しと合算すると、上半期における中央銀⾏の⾦需要は合計 483 トンとなり、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズの中で上半期としての最⾼記録を更新しました2
 

今期、報告があった購⼊量は減少しましたが、同時に売却も減少しました。売り買いにおいては、引き続き新興市場(EM)がしっかりとけん引役を果たしており、直近の四半期では、14 の新興市場中央銀⾏の⾦準備⾼が 1 トン以上増加または減少しました3。これに対し、先進国の中央銀⾏で今期、⾦準備⾼が増加したのは 1 ⾏だけでした。

今期、⾦の購⼊量が最も多かった中央銀⾏の⼀つがポーランド国⽴銀⾏(NPB)でした。NPB の⾦購⼊は 2023 年第 4 四半期以来のことで、⾦準備⾼は正味で 19 トン増加して、⾦の総保有量は 377 トンとなり、準備資産全体の 13%に達しました。6 ⽉初めの記者会⾒で、NPB のアダム・グラピンスキ総裁は、準備資産全体に占める⾦の割合を 20%まで増加させる計画をあらためて表明しました4


図 10:上半期過去最⾼を記録した中央銀⾏の⾦需要

四半期別中央銀⾏⾦需要

図 10:上半期過去最高を記録した中央銀行の金需要

四半期別中央銀行金需要

図 10:上半期過去最高を記録した中央銀行の金需要
四半期別中央銀行金需要
*データは 2024 年 6 月 30 日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールドゴールドカウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2024 年 6 月 30 日現在。

今期、インド準備銀⾏(RBI)は⾦の購⼊を継続し、⾦準備⾼を 19 トン増加させました。今年に⼊ってから RBI は毎⽉、⾦準備⾼を増やしており、年初来の買い越しは合計 37 トンに達し、2022 年(33 トン)と 2023 年(16 トン)の年間買い越し⾼を上回っています。

4 ⽉、シャクティカンタ・ダス RBI 総裁は次のように述べています。「RBI では、⾦準備⾼を増加させており、データについては随時公開する…」5。現在の RBI の⾦準備⾼は 841 トンで、準備資産全体の 10%に当たります6

今期、トルコ中央銀⾏は公式⾦準備⾼を 15 トン増やし、年初からの買い越しは 45 トンで、中央銀⾏としては最⼤となりました7。国内市場の逼迫を解消するために、トルコ中央銀⾏が⼤量の売却(102 トンの売り越し)を⾏った昨年の上半期とは異なり、今年は第 2 四半期を通して購⼊が中断されることがありませんでした。現在の公式⾦準備⾼は 585 トン(準備資産全体の 34%)です。

今期購⼊量で注⽬すべきその他の中央銀⾏は、ウズベキスタン中央銀⾏(7 トン)、チェコ国⽴銀⾏(6 トン)、カタール中央銀⾏(4 トン)、ロシア中央銀⾏(3 トン)、イラク中央銀⾏(3 トン)、ヨルダン中央銀⾏(1 トン)、キルギス共和国国⽴銀⾏(1 トン)です。先進国市場で唯⼀、今期の⾦準備⾼が増加したと発表したのがシンガポール⾦融管理局(4 トン)です。

中国⼈⺠銀⾏(PBoC)は、今期の⾦購⼊が⼤きく減少したことを発表しました。4 ⽉に 2 トンの買い越しがあった後、5 ⽉と 6 ⽉には⾦準備⾼の変動はありませんでした。2022 年 11⽉から 2024 年 4 ⽉まで、PBoC が公表した⾦購⼊量は 316トンで、⾦準備⾼は 2,264 トンに達しました。今年、⾦価格が⾼騰したことによって、PBoC の準備資産全体に占める⾦の割合は 5%となり、1996 年以来の⾼⽔準となりました。

今期、売り越しもありましたが、買い越しに⽐べるとわずかでした。⾦準備⾼が 1 トン以上減少した中央銀⾏は、フィリピン中央銀⾏(12 トン)とカザフスタン国⽴銀⾏(12 トン)の 2 ⾏だけでした。

過去数四半期と同じく、今期も未公表の需要が全体の多くを占めました。ワールド ゴールド カウンシルの推定では、こうした需要が全体の 67%を占めています。

今期、インド準備銀⾏とナイジェリア中央銀⾏はそれぞれ英国と⽶国から⾦を⾃国に送還したと報じられました8,9。送還は、⾦の(所有権ではなく)所在地の変更のみを意味するものであり、したがってワールド ゴールド カウンシルの需要予測には影響しません。ただし、中には⾦の⾃国内での保管を重視する中央銀⾏も存在するという事実が明らかになりました。

 

図 11:ヘッジや分散⼿段としての⾦の役割は中央銀⾏にとっての重要事項

⾦を保有する決定において次にあげる要因はどの程度関連性があるか?*

図 11:ヘッジや分散手段としての金の役割は中央銀行にとっての重要事項

金を保有する決定において次にあげる要因はどの程度関連性があるか?*

図 11:ヘッジや分散手段としての金の役割は中央銀行にとっての重要事項
金を保有する決定において次にあげる要因はどの程度関連性があるか?*
*基本:金を保有するすべての中央銀行(57)、先進経済(18)、EMDE(39)。「非常に関連している」と「ある程度関連している」による順位付け。 出所: YouGov、ワールドゴールドカウンシル

出所: YouGov, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*基本:金を保有するすべての中央銀行(57)、先進経済(18)、EMDE(39)。「非常に関連している」と「ある程度関連している」による順位付け。

中央銀⾏の⾦需要の⾒通しは引き続き堅調です。そのことは、ワールド ゴールド カウンシルが先頃実施した中央銀⾏アンケート調査で確認されており、調査回答者の内 81%が、今後 12 ヵ⽉間で中央銀⾏の⾦保有量は増加すると予想し、29%が⾃国の中央銀⾏の⾦準備⾼は増加すると予想しました。

調査では、中央銀⾏が⾦を保有する主な理由も明らかになり、その中では安全性が最も重要な要因であるように思われます。回答者は、⻑期価値の保全/インフレヘッジとしての役割、危機時のパフォーマンス、効果的なポートフォリオ分散⼿段、デフォルトリスクがないことが依然、⾦の魅⼒のカギとなっていると答えています。

今年上半期の実績と実施したアンケート調査結果に基づき、ワールド ゴールド カウンシルは、2024 年通年において、中央銀⾏は引き続き⼒強く⾦を購⼊するとの予測を維持します。現在のところ、中央銀⾏の年間合計は今年も相当な⾦額に達すると⾒込まれていますが、過去 2 年間の額に匹敵するか、あるいは上回るかは今後の展開にかかっています。

脚注

  1. 本稿執筆時点で公表済みのデータ。ゴールド・デマンド・トレンドの⽬的において、中央銀⾏需要とは、各国中央銀⾏および(該当する場合、IMF や主権国家資産ファンドなどの超国家的組織を含む)その他の公的機関による純購⼊量(購⼊量から売却量を差し引いた量)として定義されている。ワールド ゴールド カウンシルの四半期ごとの中央銀⾏需要データはメタルズ・フォーカスから提供されたものであり、公共分野の活動に関する独⾃の推定値には、IMF IFS、国際貿易データなどさまざまな情報源が組み込まれている。そのため、IMF IFS で公表されるデータは、ゴールド・デマンド・トレンドで取り上げる中央銀⾏⾦需要のサブセットとなっている。いずれのデータセットも、新しい情報が⼊⼿できた場合や、公的機関のデータ発表の遅れや更新に対応するため、改訂される可能性がある。

  2. ワールド ゴールド カウンシルの四半期データシリーズは、2000 年までさかのぼることができる。

  3. 国レベルのデータは、本稿執筆時点で正しかったものである。報告があった時期とゴールド・デマンド・トレンドの発⾏時期との時間的ずれのため、国レベルデータのすべてが四半期全体の状況を反映しているわけではない。

  4. ワールド ゴールド カウンシルの中央銀⾏⾦準備⾼ランキングは次のサイトで確認できる:Central Banks Gold Reserves by Country | ワールド ゴールド カウンシル。

  5. トルコの公的部⾨の⾦準備⾼は、中央銀⾏が保有する⾦と財務省が保有する⾦の合計である。これは⾦準備⾼の合計から、中央銀⾏が商業セクターの⾦政策、例えばリザーブオプションメカニズム(ROM)、担保、預⾦、スワップなどに関連して保有する⾦を差し引いたものに相当する。この⽅法論に関する情報は、このリンク先を参照のこと。

著作権およびその他の権利について [+]著作権およびその他の権利について [-]