宝飾品

30 July, 2024

記録的な価格の高さにより、わずかな例外を除いて世界中の市場で金宝飾品の消費量が抑制されました。

  • 世界の金宝飾品消費は前年同期比 19%減の 391 トンでした。
  • 比較的底堅かった第 1 四半期の需要と合わせると、上半期の合計は 870 トン(前年比 10%減)でした。
  • 中国では、国内経済状況の悪化と記録的な金価格の高騰が相まって、最大の減少を記録しました。
トン 2023年第2四
半期
2024年第2四
半期
前年同期比%
世界合計 479.4 390.6 -19
インド 128.6 106.5 -17
中国 132.1 86.3 -35

出所:メタルズ・フォーカス、ワールドゴールドカウンシル

金価格が何度も過去最高値を更新するという異例の四半期に、宝飾品需要は当然のことながら反応し、急減しました。世界の宝飾品消費量は前年同期比 19%減の 391 トンでした。これは第 2 四半期として、宝飾品需要に対するコロナ禍の打撃が最も深刻だった 2020 年に次ぐ低い水準でした。第 1 四 半期は比較的底堅かったものの、上半期の世界の宝飾品需要 は、10%減の 870 トンになりました。

金額ベースの第 2 四半期の宝飾品需要は 290 億米ドルでした。これは前年同期比を 4%下回ります。金価格が急上昇したものの、トンベースの減少を埋め合わせるには至りませんでした。上半期の需要は、金額ベースでは前年同期比 2%増 の 610 億米ドルでした。これは上半期としては、第 2 四半期のトンベースの需要が過去最高の 834 トンを記録した 2013 年以来の高い水準です。

 

図 4:第 2 四半期に金価格が最高値に達するも、その多くは 7 月に更新される

主要通貨建て金価格の日次推移、2024 年 1 月 1 日を基準に指数化*

図 4:第 2 四半期に金価格が最高値に達するも、その多くは 7 月に更新される

主要通貨建て金価格の日次推移、2024 年 1 月 1 日を基準に指数化*

図 4:第 2 四半期に金価格が最高値に達するも、その多くは 7 月に更新される
主要通貨建て金価格の日次推移、2024 年 1 月 1 日を基準に指数化*
*データは 2024 年 7 月 19 日現在。 出所:ブルームバーグ、ICE ベンチマーク・アドミニストレーション、ワールドゴールドカウンシル

出所: ブルームバーグ, ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2024 年 7 月 19 日現在。

中国

第 2 四半期の中国の金宝飾品需要は合計 86 トンで、前年同期比で 35%減少しました。金価格の上昇と経済成⻑の鈍化が消費者センチメントの重荷となり、需要は 10 年間平均を 46% 下回って、第 2 四半期としては 2009 年以来の低水準となりました。第 2 四半期を合わせた上半期の金宝飾品需要は 271 トンと、前年比で17%減少し、2020 年上半期以来の低い水準 でした。

金価格の急上昇と、国内経済成⻑の鈍化の 2 点が、上半期の金宝飾品需要の低迷の主な要因でした。現地金価格は 3 月に 10%上昇して第 1 四半期の消費を抑圧しましたが、4 月と 5 月も上昇が続き、第 2 四半期にも何度か最高値が更新されました2。中国経済が減速――GDP と可処分所得の伸びが今期はともに悪化――したこともあって、消費者の購入能力に制約が生じ、宝飾品需要が落ち込みました。このことは、伝統的に購入が急増する 5 月の労働節の 5 連休の売上が振るわなかったことにも表れています。

 

図 5:中国では記録的な価格と経済成⻑の弱さが需要を圧迫

中国の四半期別金宝飾品消費量(トン、10 億米ドル)*

図 5:中国では記録的な価格と経済成⻑の弱さが需要を圧迫

中国の四半期別金宝飾品消費量(トン、10 億米ドル)*

図 5:中国では記録的な価格と経済成⻑の弱さが需要を圧迫
中国の四半期別金宝飾品消費量(トン、10 億米ドル)*
*データは 2024 年 6 月 30 日現在。 出所:ICE ベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブ GFMS、ワールドゴールドカウンシル

出所: ICEベンチマーク・アドミニストレーション, メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2024 年 6 月 30 日現在。

住宅市場の悪化、現地株式市場のパフォーマンスの相対的な低迷、不透明な経済見通しが慎重な消費者環境を助⻑し、このことが持続的な貯蓄意欲の高さにも反映されました。その結果、消費者は娯楽の裁量支出を控えました。この傾向はマッキンゼーの 2024 年中国消費調査でも特定されています。

このような環境において、ワールドゴールドカウンシルは各地域の宝飾品市場を訪問し、手頃な価格の軽量の商品というトレンドが引き続き人気を集めていることを確認しました。上半期は、24K 硬質純金商品の売上が他のすべてのカテゴリーを上回り、全体として比較的小ぶりで安価な商品が消費者に歓迎されました。これはワールドゴールドカウンシルの 2023 年の中国の宝飾品市場に関する洞察で確認されたトレンドです。

その結果、中国の金宝飾品業界は大規模な再編に直面しています。特に、近年の小売ネットワークの急拡大を受けて、このことが顕著になっています。小売マージンが縮小したことから、多くの宝石商が、複雑なデザインで多様な宝石をあしらった利益率の高い商品を販売して、利益の確保を図るようになりました。ハイエンドのこうした商品は比較的好調ですが、一般市場はより安価な商品を重視しています。

この先の下半期について、金宝飾品需要が上向く可能性は限定的です。第 4 四半期の季節的な強さは支えになるはずですが、景気改善の明確なサインが現れるまでは、消費者センチメントの不安定な状態が続きそうです。価格環境も依然として厳しく、ここからさらに上昇すれば需要が抑制されるでしょう。

インド

インドでは、記録的な金価格が第 2 四半期の金宝飾品需要の大きな重しとなりました。需要は前年同期比 17%減の 107 トンで、第 2 四半期としてはコロナ禍に見舞われた 2021 年第 2 四半期以来の低い水準でした。上半期の需要は 202 トンと、 2020 年以降で最低でした。需要が急減したとはいえ、同国の経済環境は健全さを維持しています。GDP 成⻑率見通しは 7%で、二輪車や日用品の売上の増加は、重要な農村部の回復を示唆していると思われます3

金価格は 6 月に 5 月のピークから下落したものの、心理的な大台である 70,000 ルピー/グラムを上回って推移したため、需要は引き続き抑制されました。このことは、今期を通して 現地通貨建て価格のディスカウントが続いたことにも表れています。記録的な金価格に加えて、他にもいくつかの要因が今期の相対的な弱さに寄与しました。4 月中旬から 6 月上旬に行われた国政選挙は金宝飾品の消費を撹乱しました。5 月末にデリーで記録的な猛暑をもたらした深刻な熱波も同様です。

インドで最も重要な金購入機会の 1 つと見なされるアクシャヤ・トゥリティーヤ祭が、5 月中旬の需要の回復を促しました。事例報告では、都市部と農村部の両方で活発な動きが見られ、需要が予想を上回ったことが指摘されています。しかし、この盛り上がりは短期的なものであり、需要はかなり急激に弱まりました。

心強いことに、インドの消費者による金宝飾品の投げ売りの兆候はほとんど見られません。リサイクル活動は、単純な売却よりも金と金の交換が主流です。さらに注目するべきは、宝飾品を担保とするゴールドローンの増加です。このような活動が、5 月末までに前年比 30%増加したと報告されています4

さらに最近の展開として、インド政府の 2024-25 年予算(7 月 23 日発表)で、金やその他金属の輸入関税が大幅に引き下げられました。ニルマラ・シタラマン財務相は、合計輸入関税を、地金については 15%からわずか 6%に、金ドーレについては 14.35%から 5.35%に引き下げることを発表しました。この変更は 7 月 24 日に発効し、輸入される金の値下がりの恩恵が、季節的な祝祭関連の購入が始まる前に小売レベルで消費者に届くため、第 3 四半期の金宝飾品需要の回復を促す可能性があります。

これまでのところモンスーンが順調なことも、国内の経済成⻑の勢いを加速させ、第 3 四半期の需要のさらなる支えになるはずです。とはいえ、これ以上に金価格が高騰すれば、消費者が新たな高値に慣れるまで、少なくとも一時的には関税引き下げのプラスの効果が抑制されるでしょう。

中東とトルコ

トルコの宝飾品需要は、2022 年第 1 四半期以降で初めて前年同期を下回り、19%減の 8 トンとなりました。前四半期比では 26%減とさらに大きく減少しましたが、これは主に、非常に好調だった第 1 四半期との比較によるベース効果が原因です。上半期の合計はほぼ前年並みの 20 トンでした。金額ベースでは 430 億トルコ・リラで、前年比 76%増加し、半期の最高記録となりました。

需要の減少は、ほぼ全面的に、金価格が高値を更新したことが原因です。ただし高カラット市場は投資動機でも動くため、金融政策の展開――金利を引き上げ、貯蓄口座の魅力を高める――への対応も影響しました。

第 2 四半期は中東のほぼ全域で宝飾品需要が減少し、2021 年 第 2 四半期以降で初めて地域の需要が 40 トンを下回りました。唯一の例外がエジプトで、需要は 2%増と安定していました。これは IMF の救済措置によりセンチメントが改善し、イード・アル=アドハー(犠牲祭)関連の需要の顕著な増加を支えたことが要因です。イランでは、経済活動の弱さと実質賃金の停滞が響き、宝飾品需要は前年同期比で 6%減少しました。UAE の需要は、金価格の高さと 4 月の猛烈な嵐による消費の中断の影響で、6 四半期連続で前年同期を下回りました(13%減)。

 

図 6:記録的な価格高騰に伴い、宝飾品需要は広く低迷

第 2 四半期の金宝飾品需要の前年比変化率(%)*

図 6:記録的な価格高騰に伴い、宝飾品需要は広く低迷

第 2 四半期の金宝飾品需要の前年比変化率(%)*

図 6:記録的な価格高騰に伴い、宝飾品需要は広く低迷
第 2 四半期の金宝飾品需要の前年比変化率(%)*
*データは 2024 年 6 月 30 日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールドゴールドカウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2024 年 6 月 30 日現在。

米国と欧州

米国の金宝飾品需要は前年同期比 5%減の 33 トンと、需要の正常化トレンドが継続して、9 四半期連続で前年を下回りました。2021/2022 年には、ロックダウンによる制約と連邦政府からの所得支援を受けた消費者が、余剰貯蓄の一部を金宝飾品の購入に向けたことから、需要が顕著に増加しました。この余剰貯蓄が徐々に失われ、旅行や娯楽への支出が再開するにつれて、金宝飾品需要は減少し始めました。消費者信頼感の悪化と、記録的な金価格と物価高騰危機の継続という環境の中、第 2 四半期はこの減少傾向が加速しました。

しかし、より⻑期的な文脈で見ると需要は好調さを保っています。パンデミック前の 5 年間の米国の第 2 四半期の宝飾品需要は、平均 27 トンでした。

欧州市場も第 2 四半期は低調で、地域の需要は 3%減の 15 トンでした。減少の主な要因は、消費者センチメントの弱さと景気の低迷(特にドイツ)だと言われています。フランスと英国はともに、選挙関連の不透明感が 6 月に売上に打撃を与えたことが報じられました。いくつかの市場では、婚約指輪の需要の低迷や、価格主導のプラチナへの移行も確認されました。

アセアン市場

ベトナムとインドネシアでは第 2 四半期に需要が減少し、タイは記録的な金価格の環境にもかかわらずトレンドに逆行しました。

タイでは今期半ばの価格調整に消費者が反応し、価格上昇トレンドが再開する前に金の購入機会として生かしたことから、需要が回復して前年同期比 12%増の 2 トンとなりました。一般的に高カラットのこの市場では、投資動機も金宝飾品需要を支えることに寄与したかもしれません。上半期の需要は、2023 年上半期と変わらず 4 トンでした。

ベトナムの第 2 四半期の金宝飾品需要は、前年同期比で 15% 減少し、わずか 3 トンでした。GDP 成⻑率の鈍化もセンチメントに影響を与えましたが、この減少は主に価格が主導したものです。上半期の需要は 7 トン強に落ち込み、上半期としては 2020 年以降で最低となりました。

インドネシアでは、広くインフレが持続する中で金価格が高騰したことから、第 2 四半期の需要が前年同期比で 8%減少しました。金価格が高く購入能力に制約が生じたことから、比較的低カラットの宝飾品が好まれる傾向が続きました。上半期の需要は 10 トンで、2023 年上半期を 10%下回りました。

その他アジア諸国

日本の金宝飾品需要は前年同期比で 5%減少し、4 トン弱でした。第 1 四半期が好調だったおかげで、上半期の総需要は 7 トンを維持しました。プレーンな金の喜平チェーンに対する準投資需要は(好調な金地金・金貨需要と同様に)旺盛でしたが、市場のその他のカテゴリーは、記録的な金価格の環境下で苦戦しました。

韓国の金宝飾品需要は、価格の高さを受けて前年同期比 8% 減少し、3 トンとなりました。これは第 1 四半期の増加分を超える減少であり、2016 年をピークとする同市場の⻑期的な減少傾向に回帰しました。

オーストラリア

オーストラリアの金宝飾品需要は 32%落ち込み、2 トンとなりました。消費者には経済状況の悪化による危機感があり、厳しい環境が続きました。

著作権およびその他の権利について [+]著作権およびその他の権利について [-]