中央銀行の購入が減速する中、欧米の金 ETF 投資家が動き始めています。宝飾品は価格の高騰に苦しんでいますが、地政学的、経済的な不透明性が金地金・金貨への関心を支えています。
- 金価格は、需要の動きと同様に第 2 四半期か以降にかけて引き続き安定して推移しております。ワールドゴールドカウンシルでは、年央見通しに示した通り、金価格を支えるファンダメンタルな要素が十分にあることを踏まえ、下半期の金価格が現在の水準から横ばいあるいは緩やかに上昇すると見ています。
- 欧米の投資需要は下半期にプラスになる見通しですが、第 2 四半期の ETF 投資が予想よりも振るわなかったことから、ワールドゴールドカウンシルは通年予想を若干引き下げました。上半期と同様に、OTC 投資が大いに貢献するでしょう。
- 第 2 四半期は、買い手が価格に敏感に反応したため宝飾品需要が損なわれましたが、今後もしばらく、消費者が価格の高さに完全に慣れることはないかもしれません。最近の関税引き下げと、マクロ環境の健全さを追い風とするインドが、引き続き唯一の一時的な明るい材料になりそうです1。加工分野のプラスの話題として、テクノロジー需要は引き続き AI および高性能コンピューティングの用途から恩恵を受けており、下半期もこれが継続しそうです。
- リサイクルは、価格の高さと景気の不透明性を背景に、過去のデータレンジの上位 4 分の 1 の範囲で推移する見込みです。鉱山供給について、ワールドゴールドカウンシルは第 1 四半期の下方修正に伴って通年予想の範囲を若干引き下げましたが、それでも過去最高の 1 年になりそうです。
- ワールドゴールドカウンシルの全体的な見通しの下振れ要因として、中央銀行による購入量の減速や、新興国市場のリテール投資の弱さがあります。上振れ要因としては、先進国市場の景気減速が深刻化し、それと並行して、政策金利の引き下げ路線によって金投資商品への関心が高まることが考えられます。これに加えて、主に米国大統領の座をめぐる競争が激しくなるにつれ、(地理的)政治的な不透明性が市場のボラティリティに影響する可能性があります。
図 2:2024 年は、投資の流れが、宝飾品需要の弱さを埋め合わせる以上に復活する可能性
2023 年と比較した 2024 年の年間金需給の変動予測(トン)*
図 2:2024 年は、投資の流れが、宝飾品需要の弱さを埋め合わせる以上に復活する可能性
2023 年と比較した 2024 年の年間金需給の変動予測(トン)*
図 2:2024 年は、投資の流れが、宝飾品需要の弱さを埋め合わせる以上に復活する可能性
2023 年と比較した 2024 年の年間金需給の変動予測(トン)*
*データは 2024 年 6 月 30 日現在。
出所:ワールド ゴールド カウンシル
出所:
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
投資
先進国市場の金 ETF 投資需要は、2024 年の年初来の金価格の高騰を受けて、引き続き精彩を欠いています(図 3)。しかし、比較的把握しにくい OTC の需要や堅調なセカンドハンド市場の動きからは、投資家の関心の高さがうかがわれます。
ワールドゴールドカウンシルでは、以下のいくつかの要因を考慮し、先物ポジショニングのさらなる強化と連動して、新たに生まれた金 ETF のプラスの流れが持続する可能性があると見ています。
- 米国と欧州で、政策金利引き下げの道筋がより明確に
- 米国の成⻑率と雇用から考えると、米国の財政赤字の現状および予測値は「過大」
- 下半期に米国の政治的論争が活発化すると、市場ボラティリティが上昇
- 世界の地政学的リスクにより、リサイクルが一部抑制され、リテール需要が増加
- 中央銀行の購入トレンドによる支え
注目するべきは、最近の欧州と北米の金 ETF フローの変化です。ETF の動きはトレンド化する傾向があるため、ワールドゴールドカウンシルでは下半期がプラスになる可能性があると見ています。アジアの ETF 需要も、主に中国の ETF 購入が牽引してプラスを維持する見込みですが、インドでの持続的な流入も貢献するでしょう。
ワールドゴールドカウンシルでは、金 ETF は過少保有されている状態にあると見ており、起こり得る結果の分布は上方に偏っています。
図 3:欧米の金 ETF 保有は依然として過少――最近の流入で潮目は変わりつつあるか
北米および欧州で上場する金 ETF の保有量と、資産運用会社による COMEX における買建玉正味残高、トン*
図 3:欧米の金 ETF 保有は依然として過少――最近の流入で潮目は変わりつつあるか
北米および欧州で上場する金 ETF の保有量と、資産運用会社による COMEX における買建玉正味残高、トン*
図 3:欧米の金 ETF 保有は依然として過少――最近の流入で潮目は変わりつつあるか
北米および欧州で上場する金 ETF の保有量と、資産運用会社による COMEX における買建玉正味残高、トン*
*2024 年 6 月 30 日時点。
出所:ブルームバーグ、企業発表資料、COMEX、ICE ベンチマーク・アドミニストレーション、米国商品先物取引委員会、ワールド ゴールド カウンシル
出所:
ブルームバーグ,
U.S. Commodity Futures Trading Commission,
COMEX,
企業発表資料,
ICEベンチマーク・アドミニストレーション,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
金地金・金貨の需要は下半期も安定していそうです。中国の金地金・金貨需要は、第 2 四半期後半の減速を引き継いで、下半期初めに一服する可能性がありますが、景気の不透明性や国内資産のパフォーマンスの不振を背景に、関心は失われていません。しかし、金価格の明確なトレンドの欠如による下振れリスクがあるかもしれません。
インドの金地金・金貨需要は金価格の上昇に反応してきました。さらなる上昇に期待した投資家が、このトレンドに乗っています。これまでのところモンスーンの降雨が順調なため、これが農村部の所得と継続的な投資需要の支えとなるはずです。一方、最近発表された金の輸入関税の引き下げも、消費者需要を大幅に増やす可能性があります。
金地金・金貨需要について、支えとなる基本条件が大きく変わる可能性は低いため、ワールドゴールドカウンシルは全般的に慎重かつ楽観的な見方を維持しています。
加工需要
第 2 四半期に宝飾品が低迷したことは、驚きではありませんでした。最終的には価格が響きました。中国の宝飾品需要は、コロナ禍のころより悪かったという報告もあり、6 月に同国の消費者信頼感が過去最低を記録したことも助けにはなりませんでした。インドの宝飾品は、基本的に価格が法外な高さだったにもかかわらず健闘し、わずかに増加しました。7 月政府予算で発表された大幅な関税引き下げを受けて、同市場の見通しは大いに改善していますが、現地通貨建て価格の上昇が続けば宝飾品需要は抑制されるでしょう。
ワールドゴールドカウンシルの総合宝飾品分析モデルによると、消費者は価格に敏感ですが、高い価格に対して、一周期遅れである程度の適応をしているようです。この特徴は年間レベルでも四半期レベルでも見られます。
テクノロジーセクターの金需要は、引き続き AI ブームが最先端チップの需要を支えており、コロナ後の回復トレンドが続いています。下半期もこのトレンドが続く見通しですが、金価格が高止まりすれば、⻑期的にメーカーは可能な限りのコスト削減をするプレッシャーにさらされるでしょう。
中央銀行
中央銀行について、ワールドゴールドカウンシルは通年予想を前四半期から据え置きます。これは基本的な需要ドライバーに大きな変化はないと予測しているためで、ワールドゴールド カウンシルの中央銀行アンケート調査結果もこれを裏付けています。第 2 四半期の数字はワールドゴールドカウンシルの予想をやや下回りましたが、第 1 四半期の購入が小幅に上方修正されたことで相殺されました。通年購入量については、2023 年を 150 トン程度下回るという予想を据え置きます。一部の新興国中央銀行の購入要因として挙げられた 2 点、すなわち制裁措置とソブリンリスクは、依然として高い状態が続いています。
供給
鉱山生産量は、アフリカを筆頭とするいくつかの地域の生産に増産、拡張、品位上昇の恩恵があったことから、依然として過去最高を更新する勢いです。過去最高の総産出コスト (AISC)マージンも好材料ですが、第 1 四半期の生産量が下方修正されたため、ワールドゴールドカウンシルの前回の見通しと比べると、この目標については多少の不確実性が増しています。
第 2 四半期のリサイクルは、金と金の交換やゴールドローンが優勢なインドでの減少が響いて、予想ほど大きくありませんでした。このためワールドゴールドカウンシルは、下半期の金価格が横ばいで推移する可能性を考慮し、今年後半の予想をわずかに下方修正しました。
リサイクルに対するインドの貢献は下半期に減少する見込みですが、欧州における、上半期の価格の高さと景気の不透明性に対するリサイクルの反応を見ると、古い手持ちの宝飾品の売却が下半期にさらに進む可能性が高まります。