今後の見通し

1 November, 2022

金需要の多様性は第 3 四半期においてポジティブなサプライズとなり、2022 年の通年予想が上方修正されました。

  • 2022 年通年で減少が予想されているものの、世界的なスタグフレーションリスクをはじめ、政策金利上昇に関するサプライズの減少、ネガティブな心理の広まりから、増加の可能性も残されています。ドル高が続けばマクロ経済環境は悪化し、それに対する小売の強力な反応が、減少が見込まれている OTC と前年並みの ETF 需要とを補完する可能性は低くなります。
  • 中央銀行の需要は引き続き予想を上回っており、今後さらに増加する可能性を考慮に入れておく必要があります。
  • 宝飾品需要も、従来考えられていたよりも堅調でした。ロックダウンなどの逆風にもかかわらず、中国の需要は持ちこたえてきました。インドやその他東南アジア諸国での堅調な需要がさらなる支えとなって、宝飾品需要と加工需要の合計は、予想を上回って今年を終えると思われます。第 4 四半期のテクノロジー需要の見通しが暗いにもかかわらず、そのように予想されています。
  • 2022 年の年間総供給量に関して、ワールド    ゴールド    カウンシルの見方はほとんど変わっていません。鉱山生産量は、かつての操業中止から順調に回復しているものの、収益面では逆風が吹いています。リサイクルは若干減少する可能性がありますが、経済がさらに減速した場合には増加することもあり得ます。

通年の見通し

投資:第3四半期のネガティブな地合いによって下方修正されましたが、マクロ経済リスクと買い戻しが投資家を引き戻す可能性があります。

第 3 四半期が非常に不調だったことから、金に対する否定的な投資家心理が払拭されたと考えることができます。さらなる政策金利引き上げのサプライズと米ドルの安全な避難先としての強さとがもたらす影響は弱まっていく可能性があります。さらに、金価格に対する心理は歴史的に見てもきわめてネガティブなレベルに達しており、第 4 四半期に売建玉を決済する投資家が出てきて、トレンドが逆転する可能性があります。先物と ETF の売りの合計が 400 トンを超えた過去 3 回のケースでは、金はその後 3
02
~ 6 か月間上昇しました。
 

 

年間需給変化予測、2022年vs.2021年前年同期比、トン

年間需給変化予測、2022年vs.2021年前年同期比、トン

年間需給変化予測、2022年vs.2021年前年同期比、トン

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

店頭取引(OTC)の年初来累計需要の弱さは、ニューヨーク商品取引所と LBMA に保管されている在庫の減少と一致しています。OTC 投資需要は、ETF や先物など目に見える需要の動きをなぞる可能性が高いと考えています。

個人投資は堅調さを維持しており、第 4 四半期には大きく持ち直すという予想から、通年合計は、非常に好調だった 2021 年と同程度になる可能性があります。特に、中国の個人投資は第 3 四半期に予想を上回ったため、中国に関する第 4 四半期予想と通年予想を上方修正しました。これに加えて、人民元の大幅な下落によって、さらなる想定外の上方修正があるかもしれません。ただし、第 4 四半期では地方のバイヤーによる投資が減少するリスクがあります。

インドの個人投資は、金利上昇とルピー安の中で、引き続き安全資産としての需要による恩恵を受ける可能性があります。ただし中国と同様、地方の需要が弱いため、下振れリスクのおそれがあります。

アジアの他の地域では、ベトナム、インドネシア、タイで宝飾品購入が好調であり、また個人投資需要も旺盛です。この 2 種類の需要は通常、代替可能であると見なすことができます。リスクは、他の新興アジア諸国と同様、家計に対する圧迫の増大です。トルコでは、第 3 四半期の桁外れの好調さには及ばないものの、第 4 四半期に個人投資が堅調に推移することが見込まれています。欧米市場においては、スタグフレーションリスクが金地金・金貨需要の主な原動力になっています。米国の個人投資は、第 4 四半期に若干弱含みになるものの、実質的には堅調なまま推移する可能性があります。前年同期比はプラスではあるものの、1 桁台前半になると予想されています。米国以外では、米ドルが上昇し続ければ、現地通貨建て価格の強さを利用してある程度の利益が得られることが考えられます。

加工需要:第3四半期の想定外の上昇によって2022年の通年予想が押し上げられましたが、依然として下振れリスクは存在します

宝飾品需要は、今年の第 1 から第 3 四半期において驚くほどの底堅さを示しました。その結果、従来の推計に対し、第 4 四半期の予想を上方修正することが必要になりました

金価格の下落は、第 3 四半期に見られたように、中国の在庫補充の継続と同様、より積極的な需要サプライズをもたらす可能性があります。しかし、生産者や卸売業者の話によると、中国の宝飾品需要の下振れリスクはゼロコロナ政策の継続と経済の弱体化による負担増に起因しているようです。個人投資同様、アジアの小規模市場では宝飾品需要も輝きを放っています。宝飾品需要はさらなる回復が見込まれますが、インフレの予想外の上昇によって、購買力が制限されるリスクもあります。第 4 四半期のテクノロジー需要の見通しは明るいものではありません。

第 3 四半期の高い在庫レベル、米国の中国に対する規制、設備稼働率の低下および弱い半導体ガイダンスはすべて、2022 年第 4 四半期にテクノロジー用途の金需要を圧迫するおそれがあります。

中央銀行:年初来累計需要が予想を大幅に上回り、第4四半期も引き続き買い越しとなる公算が高くなっています。

これまで報じられてきた一貫した買い越しは継続することが予想されますが、おそらく第 4 四半期にはペースが落ちるでしょう。公表されていない購入の存在を排除できないことから、2022 年の通年予想を上方修正しました。

供給:鉱山生産量の力強い伸びと混合リサイクルにより供給予測に変化なし

今年の鉱山生産量は、好調な第 3 四半期を背景に、2018 年の記録に少しずつ近付いています。中国などにおける操業停止が減少したことが、ロシアによる減産を相殺しています。しかし、さらなる下方修正と生産中断リスクにより、今年の新記録達成が妨げられる可能性も残されています。さらに、全維持生産コスト(all-in    sustaining    cost:AISC)の上昇は、生産者の 9 割にプレッシャーを与えており、利益率が 3 年ぶりにマイナスになりました。ヘッジ解消はわずかではありますが、鉱山供給量の伸びを阻害します

金の米ドル建て価格の下落による世界的なリサイクルの減少が、第 4 四半期に逆転する可能性は低いでしょう。ただし、ドル高が続けば、現地通貨建て価格に関連した売りから、予想外の上昇が生じる可能性は残されていますが、これはワールド    ゴールド    カウンシルの核心的見解ではありません。さらに、インフレと景気後退リスクが差し迫り、家計の実質所得が圧迫されれば、特に低所得層での売れ行きが悪化する可能性が高まります。

脚注

  1. footnote