第 3 四半期の金の投資環境を支配したのは、広範囲に及んだ数十年間の高インフレとその結果としての金利への影響でした。金地金・金貨の投資家は前者に注目し、インフレに対するヘッジとしての役割を金の安全性に求めました。対照的に、金 ETF の投資家は、世界中の中央銀行による大幅な利上げと米ドルの急騰に直面して、金の機会費用の上昇に注目し、運用残高を減らしました。ETF の流出とともに、OTC 投資が軟化し、ニューヨーク商品取引所のマネージド通貨先物のポジションが一時的に 3 年ぶりの売り越しとなりました。
ETF
世界の金 ETF は第 3 四半期中に 227 トン(120 億米ドル)の流出を記録し、9 月末までに ETF の総金保有量は 3,548 トン
(1,910 億米ドル)になりました。
5 か月連続の流出により、1 月~ 4 月の流入 316 トンがほぼ完全に逆転しました。9 月末までの 1 年間で、金 ETF への世界的な流入は 7 トンにすぎませんでした。ただし、年初来のパフォーマンスは地域によって大きく異なります。欧州の上場ファンドは 41 トンの純流入を記録しましたが、米国とアジアの上場ファンドはそれぞれ 21 トンと 15 トンの純流出となりました。欧州の状況が比較的堅調なのは、ロシアとウクライナの戦争地域に近いことと、それが経済に及ぼす波及効果、金のユーロ建てパフォーマンスが好調であることに関連している可能性があります。第 4 四半期の最初の数週間は流出が続きましたが、その大半は、不安定な政治情勢と経済情勢によって市場の安定性を 欠いたままの英国で上場しているファンドによるものでした。
世界全体の流出の大部分(- 149 トン)は、北米の上場ファンドによるものです。その理由の一端は市場規模の反映であり、流出は大規模で流動性の高いファンドに集中しています。米国連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策がますます強硬なものになっていることが市場心理に暗い影を落とし、投資家は予想利率を大幅に引き上げ、米ドルの上昇に伴い金 ETF のポジションが縮小されました。第 3 四半期の活動により、北米の上場ファンドは年初来累計で若干の純流出(- 21 トン)になりました。欧州に上場しているファンドは、第 3 四半期に 78 トンの減少となりました。この地域の投資家も同様に、金利の見通しに動かされたのであり、ECB や SNB、イングランド銀行などの中央銀行はすべて今四半期中に利上げを実施しました。欧州の流出の大部分(55 トン)は英国の上場ファンドによるもので、残りはドイツ、スイス、フランスからのものでした。
アジアの上場ファンドの流入はわずかでした(1 トン)。地域のフローは、第 3 四半期に 1 トンの純流入があった中国の影響を大きく受けています。これは、現地金価格の下落で投資家が運用残高を増やした 7 月の流入が主な要因です。インドの金 ETF も同じく、第 3 四半期の純流出はわずか(1 トン未満)でした。これは、国内の株式および債券からの大きなリターンに投資家が引き付けられた結果です。
その他の地域のファンドは、第 3 四半期を通じてほとんど変わらず、流出は 1 トン未満でした。オーストラリアと南アフリカは、このカテゴリの 2 大市場としてフローを支配しています。オーストラリアの上場ファンドは 0.4 トン(運用残高の約 1%)を失いましたが、南アフリカのファンドへのわずかな流入によってその一部が相殺されました
金地金・金貨
金地金・金貨の個人投資需要は 351 トンと過去 6 四半期で最高となり、前年同期比では 36%の増加、前四半期比では 41%の増加でした。世界的なインフレ率の急上昇は、ほとんどの市場で需要を刺激し、今四半期中の価格の下落がその勢いをさらに増幅しました。
中国
中国の金地金・金貨需要は、コロナによるロックダウンで不振だった前四半期からほぼ倍増して 70 トンになりました。
前年同期比では 8%という緩やかな増加となりました。7 月に現地金価格が急落したことで安値買いが活発になり、第 2 四半期の大半を通じて主要都市の厳しいロックダウンが続いたことで抑圧されていた需要の解放がそれを後押ししました。さらに、金商品の現物に関する商業銀行のプロモーション活動が、一部の投資家を引き付けました。
第 3 四半期、輸入は中断されました。7 月 1 日に金に対する関税が引き上げられたことで、高関税を避けるため密輸が行われるようになりました。しかしその後、トレーダーの中に、関税が低いプラチナ合金として金を輸入するという抜け穴を利用する者が出てきたことで金の輸入は増加しました。この抜け穴は 10 月初めに閉じられましたが、それまでに 8 月から 9 月にかけて、推
金地金・金貨投資の前年同期からの急成長で先陣を切るトルコと欧州*
金地金・金貨投資の前年同期からの急成長で先陣を切るトルコと欧州*
金地金・金貨投資の前年同期からの急成長で先陣を切るトルコと欧州*
出所:
メタルズ・フォーカス,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
現地通貨が下落し、金価格の反発が増幅され、現地株式市場が下落したことで、今四半期は安全な資産としての金の魅力が前面に押し出されることになりました。9 月末までに、現地金価格は年初来累計で 4%上昇しました。
今後に目を向けると、安全資産としての金の特性と商業銀行の継続的プロモーション活動が一体となって、金地金・金貨需要を支えていくものと思われます。ただし、中国の厳格なゼロコロナ政策によって新たな移動制限が課せられる可能性があり、そうなれば需要が脅かされることになります。
インド
第 3 四半期中、個人投資家が現地金価格と株式市場の下落に反応したことで、インドの金地金・金貨需要は前年同期比 6%増となりました 需要は 45 トンに達し、5 年間四半期平均を 14%上回り、年初来累計需要は 117 トンとなり、第 1 四半期から第 3 四半期までの合計としては 2015 年以来の高水準となりました 推定 29 ~ 30 トンの金がこのルートを介して輸入されました。ナヴラトリの祝祭期間中に金貨需要が増加し、さらに業者の話によると、ディワリがあり、婚礼シーズンも到来した第 4 四半期のスタートは力強いものとなりました。ただし、年末に向けての需要は、四半期の投資としては 9 年間で最高であった昨年の第 4 四半期の合計 79 トンに達するとは考えられません。
中東とトルコ
今四半期、中東の個人投資は過去 4 年間の最高水準に達し、前年同期比 64%増の 26 トンになりました。広範な世界的課題とともに、インフレの上昇および価格下落時の購入機会が、第 3 四半期における主要な投資促進要因となりました。イランでは、安全資産に対する需要が特に顕著であり、前四半期比で投資が倍増し、公式の金貨供給が不足したこともあって、プレミアムが押し上げられる結果になりました。
第 3 四半期のトルコの個人投資は非常に好調で、5 倍以上に増加しました。47 トンは、四半期としてはワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズの中で 2 番目に多い量です。記録的なインフレと安定している通貨リラによって需要が急増し、それが第 3 四半期の価格下落のペースを速めました。
欧米
欧米市場では、インフレの急上昇、経済成長の鈍化、解消されない地政学的懸念から、金地金・金貨需要は引き続き堅調でした。米国の金地金・金貨の投資需要は引き続き増加し、前年同期比 3%増の 25 トンに達しました。需要は前四半期に比べてわずかに軟化しましたが、過去 5 年間の四半期平均である 15 トンははるかに超えています。
米国造幣局による年初来の累計販売高は 1999 年以来の高水準に達しました。インフレ率の上昇を受けて、消費者が米国経済の状態について悲観的な見方を強めている中、投資需要は、金が持つインフレヘッジとしての役割によって支えられてきました。このことは、ワールド ゴールド カウンシルが 9 月に実施した消費者調査で明らかになっており、米国の金投資家の 82%が、金がインフレや通貨変動に対する防御手段であると回答し、85%が政治的/経済的不確実性の期間に対する優れたセーフガードであると回答しました 2。
米国の個人投資家は、金を安全な資産や防衛手段と見なしている
米国の個人投資家は、金を安全な資産や防衛手段と見なしている
米国の個人投資家は、金を安全な資産や防衛手段と見なしている
米国の個人投資家は、金を安全な資産や防衛手段と見なしている
に対して「完全に同意する」または「やや同意する」のいずれかを選択した回答者の割合(ベース:1,095)出所:Appinio、ワールド ゴールド カウンシル
出所:
Appinio,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
注:過去に金投資を行ったことがあり、各選択肢に対して「完全に同意する」または「やや同意する」のいずれかを選択した回答者の割合(ベース:1,095)
そして今年末までの予想では、需要は引き続き良好であると見込まれています。ワールド ゴールド カウンシルの調査では、米国の個人投資家のほぼ 50%が、今後 12 か月間に金地金または金貨を購入する「可能性は非常に高い」と答えました
欧州の金に対する個人投資は、前年同期比で 28%増加し 72 トンとなりました。欧州の多くの地域で成長が鈍化し、目と鼻の先で戦争が続き、さらには地域を急激な不況に陥らせることなくインフレを抑えるのに有効な利上げ率の微妙なバランス調整に金融当局が取り組んでいることで、金への継続的資金流入が促進されています。ドイツの需要は前年同期比 25%増で、年初来累計
131 トンという記録を達成しました。
英国の需要は比較的低調で、前年同期比は変わらず、4 トンでした。ただし、金地金・金貨の購入は歴史的量を維持しており、5 年間四半期平均を 25%上回りました。英国ポンドが比較的弱いことで、8 月と 9 月にポンド建て金価格は持ちこたえることができましたが、投資家にとって魅力的なエントリーポイントがないことや、9 月末に向けての金価格の急上昇により、利食い売りが増える可能性があります。それにもかかわらず、第 4 四半期の初めに、成長計画 2022(The Growth Plan 2022)によって引き起こされた市場の混乱に反応して、英国の投資家が金に殺到したという報告があり、今年は力強い終わりを迎えられる可能性があります。
アセアン市場
東南アジア市場全体の投資需要は、インフレをはじめ、米ドルに対する現地通貨の下落、中期的経済成長の持続可能性に対する懸念などを背景に堅調に推移しました。ベトナムでは、投資需要が前年同期に比べてきわめて大幅に増加しました。カイリングや SJC テール金地金の需要が強く、現地投資家が再び金へと資金を移し始めたことから 3 倍以上に増加し、8 トンに達しました。供給不足と旺盛な需要により、プレミアムは約 625 米ドル/オンスに高止まりしています。タイとインドネシアの個人投資は前年同期比でそれぞれ 42%と 20%増加し、金の市場規模が小さいマレーシアとシンガポールも、絶対値としては微々たるものですが、相当の増加を記録しました。
その他アジア諸国
日本市場は第 3 四半期に 3 トンの純投資に戻り、前年同期比で 56%の増加となりました。絶対価格は歴史的高水準にあり、それが売りを鈍化させており、特に金を長年保有してきた高齢者世代の売りが減っています。
第 3 四半期、韓国の投資需要は前年同期比 19%減の 4 トンでした。四半期中にドル建て価格が約 8%下落しましたが、韓国ウォンの急激な下落により、現地通貨建て価格は約 4%上昇しました。そのため、市場が慎重になり、投資家はより良いエントリーポイントを待つようになりました。
オーストラリア
世界経済の停滞をはじめ、高インフレ、債務過剰市場での金利上昇の懸念から、投資家は依然として金に対して強い関心を持っています。個人投資需要は非常に好調だった第 1 四半期の水準は下回るものの、5 トンと手堅く、前年同期比では 1%の微増となっています。