供給

1 November, 2022

第 3 四半期の総供給量は、リサイクル量の減少が鉱山生産量の増加を相殺したため、前年同期比で1%の増加でした。

  • 第 3 四半期の鉱山生産量は、中国の生産量の回復と他の地域での技術的問題の減少により、前年同期比 2%増の約 950 トンとなりました。
  • リサイクル金の供給量は前年同期比 6%の減少で、主に中国におけるロックダウンと、他の市場での投げ売りの兆候が限定的であったことによります。
  • 年初来ベースでは、金の総供給量は前年同期比で 3%増加しました。
トン 2021 年第 3 四半期 2022 年第 3 四半期 前年同期比
供給量 1,208.2 1,215.2 1
鉱山生産量 927.7 949.4 2
産金会社のネットヘッジ -12.4 -10.0 - -
リサイクル金 292.8 275.8 -6

Source: Metals Focus, World Gold Council

第 3 四半期の鉱山生産量は 949 トンと推定され、第 3 四半期として過去最高だった 2018 年の記録に 1%届きませんでした。 2022 年第 3 四半期の鉱山生産量は、高緯度の沖積鉱床の生産量が季節的に増加したことと、早い段階で生産中断に追い込まれていた多くの国の鉱山が通常操業に戻ったことにより、前四半期比で 6%増加しました。過去 2 四半期における若干の下方修正の後、年初来の生産量は 2,686 トンとなり、2018 年 1 月から 9 月の鉱山生産量 2,705 トンという記録をわずかに下回りました。

鉱山供給量は、独立国家共同体(CIS)地域を除くすべての地域で増加しました 1。最大の増加となったのは中南米で、前年同期から 10 トン増加し、次いでアジアが前年同期比 9 トン増となりましたとなりました。前年同期比 12 トン減の CIS を除き、他のすべての地域ではわずかながらも増加となりました。

 

2018年の過去最高記録に近付いた年初来の鉱山生産量* トン

2018年の過去最高記録に近付いた年初来の鉱山生産量* トン

2018年の過去最高記録に近付いた年初来の鉱山生産量* トン
*データは2022年9月30日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2022年9月30日現在

モーリタニアでは、有力な金鉱山であるタシアストが通常操業となった結果、処理工場の火災でほとんど生産できかなった 2021 年第 3 四半期に比べて、生産量はほぼ 8 倍に増加しました。コロンビアの鉱山生産量は前年同期比で 56%の増加となり、セゴビア鉱山で計画的保守作業が行われ、また人力小規模生産が天候の影響を受けたことで減少した 2021 年の生産量からの回復を示しました。ガーナの鉱山生産量は、アハフォ鉱山の産出グレードが上がったこととオブアシ鉱山の増産が続いたことにより、前年同期比で 18%増加しました。一方、中国の鉱山生産量が前年同期比で 12%増加したのは、山東省での操業が昨年の安全対策のための操業停止から通常の状態に戻った結果です。

複数の国でも、第3四半期に生産量が減少したことが確認されています。モンゴルでは、銅と金を産出する巨大鉱山オユ・トルゴイの金の産出グレードが大幅に低下したことにより、前年同期比で62%減となりました。トルコでは、3月に金精製工場で水銀が検出されたことでオクサット鉱山が、6月にシアン化物が流出したことでコプラー鉱山がそれぞれ操業停止となったことで、鉱山生産量は前年同期比で24%減少しました。ブルキナファソの生産量は、セキュリティ上の問題からタパルコ鉱山の操業が停止されたことと、他の鉱山の産出グレードが低下したことにより、前年同期比で13%減となりました。ロシアの前年同期比11%の減少は、オリンピアダ鉱山やブラゴダトノエ鉱山など複数の主要鉱山における産出グレード低下と、コスト上昇、設備の不足、制裁による調達資金の減少による他の鉱山の生産量減少が原因でした。金の採掘コストは、入手可能な中で最新のデータである 2022 年第2四半期も引き続き上昇しました。全維持生産コスト(All-In    Sustaining    Cost:AISC)の平均は、第 2 四半期に、これも過去最高の 1,289 米ドル/オンスに達し、前年同期比は 18%の増加でした。広範に及ぶインフレにより、燃料費やエネルギー料金、労賃、消耗品価格などすべてが前年同期に比べて上がったことで、すべての地域で採掘コストが上昇しました。また、近年の金価格の上昇から、産出グレードが低い一部の鉱山が操業を開始(再開)したことで、業界の平均 AISC の上昇に貢献しました。コスト上昇と金価格の下落のため、第 3 四半期中、AISC の限界収益点はさらに低下して、9 割の金鉱山でマイナスになりましたが、これは 2019 年以来のことです。

通年合計が 2018 年の記録(3,665 トン)を超えるには、第 4 四半期がきわめて好調でなければなりませんが、上半期の数値の修正や生産停止などで、それはおそらく実現困難でしょう。詳細については、今後の見通しセクションをご覧ください。

産金会社のネットヘッジ

2022 年第 3 四半期、産金会社はヘッジポジションを 10 トン解消したと推定されています。

(大半の企業の四半期報告書が発表された後、修正されることになる)当初予想では、2021 年第 3 四半期の世界のデルタ調整後のヘッジポジション正味残高は 10 トン減少すると見込まれています。第 2 四半期のヘッジポジション正味残高の 1 トン減が予想よりも小さかったことから、年初来の減少累計は 1 トン未満と推定されます。

産金会社は、スポット価格からの影響を見据えながら金を産出することを好んでいるようであり、平均金価格は前四半期比 1%とわずかに落ち込みましたが、これが第 3 四半期に新たなヘッジを促すことはないと予想されています。追加が予想されるのは、負債による資金調達のために新しいポジションを追加することが必要な企業だけです

リサイクル金

2022年第3四半期のリサイクルは2四半期連続で減少し、合計 276トン(前年同期比-6%、前四半期比-5%)となりました。年初来のリサイクル金の累計供給量は前年同期比3%の増加となりましたが、それは主に、ロシアのウクライナ侵攻後、金の国際価格が2,000米ドル/オンスを超えるという2022年初めに見られた市場の高騰に起因しています。2021年に一部の市場が閉鎖されたことも、リサイクル活動の減少につながっており、ベース効果が年初来の増加にも関係していることが実証されました。リサイクル金の前年同期比ならびに前四半期比が下がったことは、前年同期比で 3%減、前四半期比で 8%減となった金価格の下落と軌を一にしていることはひと目で分かりますが、地域差がかなり大きいことは特筆すべき点です。米ドル高により、多くの国、特に日本、EU、英国で現地通貨建て金価格が上昇し、そうした国のすべてでリサイクルの流れが増加しました。対照的に、中東と南アジアでは、リサイクル量が前年同期比、前四半期比ともに減少しました。

 

地域差があった第3四半期の金リサイクル*

地域差があった第3四半期の金リサイクル*

地域差があった第3四半期の金リサイクル*
*データは2022年9月30日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2022年9月30日現在

多くの国でインフレ率が上昇しているにもかかわらず、消費者による投げ売りの兆候は限定的です。このことが明らかな市場―― 例えばトルコでは実質的な預金金利がマイナスであり、イランやイラクでは投資の選択肢が限られているなど、さまざまな要因により、消費者は可能な限り金を保持するようになっています。米国では、リサイクルの流れは基本的に横ばいであり、精製工場の活動は安定していて、取引在庫減少の兆候は見られませんでした。ただし、一般に低所得層を相手とする質屋は、第 3 四半期の取り扱いが活発になったことが報告されており、これは、米国が景気後退に陥った場合、スクラップ供給が大きく増加する前ぶれである可能性があります。中国におけるリサイクル金の供給は前四半期比では増加しましたが、前四半期ではコロナによるロックダウンで売り手の市場アクセスが制限されたためであり、2021 年第 3 四半期と比較すると減少しました。ただし、2022 年第 3 四半期は今年前半に比べて制限が弱かったため、前四半期比での増加は説明がつきます。ワールド    ゴールド    カウンシルでは今後も、リサイクル金の供給量を注意深く監視していきます。世界経済の悪化、米ドル高、生活費の高騰による圧力が多くの市場に影響を与えています。これらの要因は、金価格の動向とともに、今年および来年以降の金リサイクルの重要な推進力になるでしょう。

脚注

  1. 独立国家共同体の構成国は次の通り:アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ジョージア、カザフスタン、キルギス、モルドバ、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ、ウズベキスタン。