中央銀行
5 February, 2025
- 2024年、世界の中央銀行の金準備高は1,045トン増加しました1 。
- 最大の増加(90トン)はポーランド国立銀行によるものでしたが、多くの新興市場の銀行による需要もありました。
- 比較すると、発表された今年の売却量は戦術的かつ控えめであったように見受けられます。
トン | 2023 | 2024 | 前年同期比 | |
中央銀行およびその他機関 | 1,050.8 | 1,044.6 | -1 |
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2024年、中央銀行の金に対する際限のない購入意欲は重要な節目を迎えることになりました。今年第1~第3四半期に712トンの増加を記録した後、第4四半期にも333トンを買い増しし、年間の正味合計は1,045トンに達しました。その結果、買い越しが15年連続となったほか、特に今年は需要が3年連続で1,000トンを超えました。これは、2010年~2021年の年平均473トンをはるかに超えており、金の年間パフォーマンスに貢献しました。
金は長い間、金融の信頼性と安定性を証明する指標として認められてきました。ワールド ゴールド カウンシルの2024年中央銀行金準備高調査の回答者は、世界の中央銀行は当分、金の配分率を高め続けることになるとの見方をはっきり示しました。また、中央銀行の需要自体はさほど驚くべきことではないにしても、継続して旺盛な需要は、ワールド ゴールド カウンシルの強気の予測さえ上回りました。
全般的な購入傾向以外に、一部の中央銀行の金準備に顕著な変化がありました2 。過去14年間と同じく、2024年の動きの多くは新興市場の銀行が原動力となりました。
今年金購入量が最も多かったのはポーランド国立銀行(NBP)で、金準備高が90トン増加しました。ポーランド国立銀行のアダム・グラピンスキ総裁は金の保有を積極的に主張してきた人物であり、これまでも総準備高に占めるNBPの金配分率を20%まで高めると公言してきました3 。昨年の買い増しに続き、今年末の時点におけるポーランド国立銀行の金準備高は448トンに達し、総外貨準備高の17%を占めています。
東欧地域で金を購入した中央銀行はほかにもあります。
- チェコ国立銀行は着実に金を増やしており、今年は準備高を20トン増やしました。これは昨年を若干上回っています。その結果、同行の金準備高は50トンを超え、2022年末時点の数値の3倍以上になりました。
- ハンガリー国立銀行(MNB)は9月に、金準備高が16トン増加したと発表しました。これは2021年3月以来の買い越しであり、金準備高は94トンから110トンに増えました。MNBは経済の不確定性の高まりを金購入の主な理由として挙げています4 。
- 中欧および東欧の他の国では、セルビア国立銀行(8トン)とジョージア国立銀行(7トン)の購入も目を引きます。
過去数年同様、トルコ中央銀行(CBRT)は今年も大量の金を購入しました。CBRTの公式金準備高(中央銀行と財務省の準備高)は、この1年で75トン増加しました5 。今年の平均月間購入量は比較的控えめでしたが、昨年に見られたような売却は実施されませんでした。
今年、インド準備銀行(RBI)が大量購入を再開し、準備高を据え置いた12月を除き 毎月金を買い入れました。その年間総購入量は73トンに達し、昨年の年間購入量(16トン)の4倍以上を記録しました。RBIはこの大量購入に関し一切コメントしていませんが、同行のシャクティカンタ・ダス前総裁は4月に次のような発言をしています。「RBIでは、金準備高を増加させており、データについては随時公開する…」6 。今年末時点で、RBIの金準備高は876トンで、総準備高の11%を占めています。
RBIはナイジェリア中央銀行7 とともに、2024年に海外から自国に金の現物を移送したことを公表した銀行です8 。以前取り上げたように、「金の現物輸送は、金の(所有権ではなく)所在地の変更のみを意味するものであり、したがってワールド ゴールド カウンシルの需要予測には影響しません。ただし、金を自国内で保管することを重視する中央銀行が存在するという事実は明らかになりました。」
中国人民銀行(PBoC)は、今年の金購入量が44トンであったと発表しました。1月から4月までに29トンを購入した後、11月に購入を再開するまでの6ヵ月間は金準備高に変動はなかったとのことです。今年末時点でのPBoCの金準備高は2,280トンであると発表されており、依然総外貨準備高の5%を占めていることになります。
アゼルバイジャンの主権国家資産ファンドであるアゼルバイジャン国家石油基金は今年金の購入を再開しました。2018年~2020年に72トンを購入し、さらに今年1月~9月に25トンを購入しました。本稿執筆時点で、第4四半期のデータは入手できませんでした。第3四半期末時点での金準備高は、同基金の投資ポートフォリオの18%弱を占めていました。
上記以外で多くの金を購入した中央銀行は次の通りです。イラク中央銀行(20トン)、ウズベキスタン中央銀行(11トン)、ガーナ中央銀行(11トン)、キルギス共和国国立銀行(6トン)、オマーン中央銀行(4トン)、ロシア中央銀行(3トン、貨幣鋳造目的と推測)、ジンバブエ準備銀行(1トン)。
売却行動も今年1年を通してみられましたが、そのほとんどが戦略的というよりも、金価格の急騰に伴う戦術的売却であり、他の地域における購入量に比べ控えめでした。
今年の第3四半期に、フィリピン中央銀行は、3月から8月までの金売却(合計30トン)の理由が金価格の上昇であり、金準備に関する積極的運用戦略の一環であったことを認めました9 。入手可能なデータによると、同行は9月と10月に若干ながら金を買い戻しました。4月、ブルームバーグは、カザフスタン国立銀行(NBK)が金価格の「ポジティブな動向」を理由に金売却を再開する可能性があると報じました。同行は5月から9月まで毎月金を売却しました。第3四半期に入って再び購入を開始しましたが、年間の正味合計で金準備高は10トンの減少となりました。
さらに最近の動きとして1月にNBKは、インフレ率を5%まで引き下げるという目標達成のため、海外での金売却による収益を使って国内の過剰流動性を抑制することを発表しました10 。この政策は、NBKが保有する外貨準備高や金準備高に影響を及ぼすものではありませんが、代わりに、中央銀行が金融政策支援のために金を利用することを認めるものとなります11。
表面的には、2024年に2番目に多くの金を売却したのはタイ銀行ですが、同行は次のように述べています。「金準備高の減少は売却によるものではありません」。同行はさらに次のように事情を説明していました。「2024年3月29日以降、貨幣用金に関し、外貨準備に含まれる金の量との整合を図り、また純度99.5%以上の金のみを計上するというIMFの定義に従うことを目的とした修正を行います 12」
今年1年を通して売り越しが顕著だったのは、シンガポール金融管理局(10トン)、キュラソー及びシント・マールテン中央銀行(4トン)、ドイツ連邦銀行(1トン、貨幣鋳造計画関連と推測)、カーボベルデ中央銀行(1トン)です。
ただし、発表された購入量が必ずしも全体像を示しているとは限りません。中央銀行による開示はしばしば遅れることがあります。また、ソブリンウェルスファンドなど他の公的機関は保有量をほとんど公表しません。そのため、IMF IFSデータは、2024年の公的部門の総需要推定値の34%のみを反映しており、昨年の47%から減少しました。
中央銀行は過去15年連続で金を買い越してきましたが、購入意欲が衰える気配はありません。中央銀行の需要レベルは政策に左右されることが多いため、特定の銀行の需要レベルを予測することは極めて困難ですが、各国中央銀行の総体的な動きとその原動力に加え、マクロ経済環境を将来の動向の指針とすることは可能です。2022年と2023年の大量購入に続き、2024年の買い越し量もワールド ゴールド カウンシルの予測を上回りました。地政学的不確実性および経済的不確実性は2025年も高い状態が続き、中央銀行がこれまで同様、安定した戦略的資産としての金に目を向ける可能性は十分あります。詳しくは「今後の見通し」セクションをご覧ください。
脚注
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ここに示された中央銀行の需要には、発表済みの変化量と、未発表の購入量の推定値が含まれている。そのため、発表された変化量のみを含むワールド ゴールド カウンシルの中央銀行月次統計とは異なっている。
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各国のデータは、本稿執筆時点で入手できた公表済みの数値に基づいたものである。さらにデータが公表された場合は改訂することがある。
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トルコの2024年12月のデータは、本号発行時点で入手できていなかった。
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カザフスタン国立銀行は、国内で採掘された輸出用の金を買い取る権利を有していることから、国内の生産者から購入した金を国際市場で販売してドルを得ることができる。さらに、そのようにして得たドルを国内市場で売却し、自国通貨と交換することで、自国通貨の価値を支えることができる。