今後の見通し

5 February, 2025

ワールド ゴールド カウンシルでは、中央銀行が主導権を握り、金ETF投資家も参戦すると予想しています。宝飾品需要は引き続き圧力を受ける見通しで、リサイクルはさらに伸びるかもしれません。鉱山供給は好調さを維持すると予想されます。

ワールド ゴールド カウンシルが2025年の金の見通しで解説したマクロ経済的な状況は、おおむね市場の予測と一致していますが、各国の中央銀行の利下げがやや慎重になったことを1つの理由として、多少変化しています。

市場コンセンサスの経済予測によると、金の主要4地域で、以下のような展開が見られるでしょう1

  • 米国は断続的に過熱リスクに直面しながらソフトランディングする。金利は徐々に引き下げられるが、平坦な道のりではない。米ドルは下落基調に
  • 欧州は引き続き伸び悩んでいるが、下半期にはインフレ率と金利がともに低下し、成長を後押しする。中国経済が少しでも上向けば、輸出にとって待望の追い風に
  • 中国は国内経済活動の低迷と戦い続けているが、継続的な景気刺激策によって小売業と不動産販売に回復の兆しが現れており、改善の可能性も
  • インドの成長率は、大半の地域を上回るとはいえ過去4年で最低になる見込みで、待望の金利とインフレ率の低下も生じる
 

図2:2025年は、中央銀行とETF投資家が最前線に立つ一方、消費者主導のセクターは課題に直面

年間金需要の変動予測*

図2:2025年は、中央銀行とETF投資家が最前線に立つ一方、消費者主導のセクターは課題に直面

図2:2025年は、中央銀行とETF投資家が最前線に立つ一方、消費者主導のセクターは課題に直面
年間金需要の変動予測*
*データは2024年12月31日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2024年12月31日現在。

投資

金ETF、OTC、先物ベースの投資にとっては、全般的に低い金利、割高な株式、米ドルの軟化、そして主に貿易や経済の不確実性という形で現れる地政学的リスクが追い風になっています。 
ワールド ゴールド カウンシルは米国金利の引き下げを予想していますが、トランプ政権の成長第一主義の政策が景気サイクル後期に一時的にインフレをあおっていることから、その道のりは平坦ではないでしょう。このような不確実性を背景に、タームプレミアムが損なわれることはなく、債券と株式の相関が強まるでしょう。これは金にとって好材料です。また、米ドルは下落する可能性があります。これは米ドルが「極端に」過大評価されていること2、米国政権が低金利と米ドルの競争力強化を推進していること3 、そしてドイツで総選挙を前に成長政策が打ち出され、ドイツ国債―米国債のスプレッドが縮小する見込みであることが理由です。

地域的に見ると、米国の金ETF投資が、一過性の資金流出があるにせよ、全体としてかなりの流入をもたらす可能性があります。欧州では、ECBが2025年中に金利を1%引き下げると予想されています4。これは欧州のETF投資家の一部が復帰する理由として十分かもしれません。しかし、復帰のペースは鈍る可能性があります。実質金利は約1%という魅力的なプラスの水準を維持し、これは2023年に欧州のETFからの投資家の離脱を促した一因だと伝えられているからです。

金地金・金貨セグメントの見通しは、やや明るさが控えめです。欧米では、欧州の景気低迷、物価高、そしてインフレ懸念や紛争リスクの後退が需要の重しとなりそうですが、金利の低下が好感されて、下半期に欧州の活動が回復するかもしれません。米国では歴史的に、共和党政権下では金地金・金貨需要が平均を下回ります。とはいえ、地政学的環境によって、減少が緩和される可能性があります。 中国とインドの需要は堅調さを維持しそうですが、インドで成長が減速し、中国で株式市場と不動産市場が多少回復して現地投資家の代替投資先となるため、2024年の水準は多少下回る見込みです。

加工

金価格が横ばいあるいはさらに上昇した場合、特に金の主要4地域のすべてで経済成長が低調あるいは減速していることを考えると、宝飾品需要はさらに落ち込む可能性があります。 中国経済の減速が続き、物価が高止まりあるいはさらに上昇すれば、同国の見通しは悲観的なものになるでしょう。 指標貸出金利が低下していることで、経済活動が上向けば、希望の光がさすかもしれません。 

インドでは、底堅さを見せた2024年に続いて、婚姻に適した吉日が多いことが宝飾品需要の多少の支えになりえます。価格の安定が、インドの宝飾品購入の命運を左右するでしょう。経済成長は減速し始めていますが、依然として素晴らしいペースで推移しており、価格変動が2025年の需要の決め手になるでしょう。その他の地域では、経済成長の軟化と価格の高さというおなじみの筋書きが、2025年の需要に圧力をかけそうです。

AIと関連インフラへの持続的な設備投資によって、テクノロジー需要は2025年も確実に力強さを維持するはずです。その他の電子機器需要については、引き続き中国と欧州の経済の不透明感が重しになるでしょう。

中央銀行

3年連続で良い意味での驚きがありましたが、中央銀行が2025年も1,000トン以上の買い越しを再現しうることを支持するエビデンスがさらに増えています。しかしワールド ゴールド カウンシルは慎重さは維持しており、中核の推計ではなくダウンサイドリスクにそれを反映しています。

武力による紛争が後退し、グローバルな貿易・経済紛争へと移行することが、中央銀行の買い越しトレンドを支える可能性があると思われます。このことは、特に第4四半期の需要の持ち直しと拡大からも見て取れます。さらに、中央銀行は一時的な金価格の下落を好機として活用した模様です。一方、売却は引き続き限定的で、価格上昇時に主に戦術的に行われました。とはいえ、中央銀行の需要の予測は、マクロ経済的要因だけでなく政策決定とも連動することが多いため、本質的に困難です。したがってワールド ゴールド カウンシルは、推計値の不確実性の幅を――ほとんどの場合は下向きに――大きく取っています。例えば、最近、為替変動に対処するための売却の発表5があったことを受けて、他の地域でも同様の展開があるというリスクを考慮に入れました。

供給

利幅の大きさは、過去最高の鉱山生産を達成するインセンティブになりますが、ダウンサイドリスクは残っています。現在の全維持生産コスト(AISC)の限界収益点は過去最高に迫る水準にあるものの、今年の総生産量が従来予想を下回ったため、ワールド ゴールド カウンシルは大幅に増加するという見方には慎重です。産金会社がスポット価格の取引を選択していると伝えられていることから、ヘッジ解消が鉱山供給量の減少に与える影響も、2025年の1つの要素になるかもしれません。

第4四半期のリサイクル金の供給は350トンを突破しましたが、突破したのは過去10年でわずかに4回です。この傾向は強まりつつあります。世界的な経済成長の鈍化、金価格の高さ、そして過去2年の金供給を抑制する主要因だった地政学的リスクのプレミアムのわずかな低下を背景に、2025年もまた、トン数が増加するものと思われます。リサイクルの増加を妨げるのは、中国および欧米市場の中間在庫の供給不足です。

脚注

  1. コンセンサス経済予測は、ブルームバーグの経済予測(ECFC)ツールの実質GDP成長率、CPI、PCE、米国政策金利、債券利回り、ユーロ/米ドルと米ドル/円の為替レートに関するアナリスト予測の中央値を使用する。

  2. 1月30日時点のブルームバーグ世界金利確率(WIRP)ツールのオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)価格に基づく。

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