宝飾品
5 February, 2025
- 今期は記録的な金価格の高さが購入能力に影響を与え、世界の金宝飾品需要は非常に低調な1年で終わりました。
- 容赦のない金価格の高騰によって消費者の購入能力が損なわれたことから、今期の需要は前年同期比12%減の547トンとなり、年間合計は1,877トン(11%減)に落ち込みました。
- 世界的に低調でしたが、インドは前年同期比2%減にとどまり、特に24%減だった中国とは対照的に底堅さを見せました。
トン | 2023 | 2024 | 前年同期比 | |
世界合計 | 2,110.6 | 1,877.1 | -11 | |
インド | 575.8 | 563.4 | -2 | |
中国:本土 | 630.2 | 479.3 | -24 |
衰え知らずの金価格がトンベースの需要に打撃を与えたため、通年の宝飾品需要は11%減少しました。コロナ禍で需要が1,400トン未満まで激減した2020年を除くと、金宝飾品需要がこれに匹敵する水準だった年は2009年まで遡ります。これとは対照的に、年間で金価格が急騰したことにより、金額ベースの宝飾品需要は過去最高の1,440億米ドル(9%増)に急増しました。
第4四半期の状況も同様です。世界の需要は前年同期比12%減と、第4四半期として過去4年間の最低値でしたが、金額ベースでは470億米ドルと、最高記録を更新しました。
トンベースの低迷について、圧倒的に大きな要因となったのが中国です。同国が世界最大の宝飾品市場の座をインドに譲ったのは、過去3年で2回目です。
中国
中国の第4四半期の需要は季節要因で改善しましたが、前年同期と比べると急激に減少しました。通年の需要は479トンに落ち込み、10年間の平均を26%、コロナ禍で需要が損なわれた2020年の水準を10%下回りました。
中国の宝飾品需要を取り巻く環境は、所得が伸び悩むなかでの消費者信頼感の低下と金価格の高騰が相まって、2024年を通じて非常に厳しいものでした。宝飾品小売セクターは試練に直面し、年間を通じて閉店が続きました。
10月初旬の国慶節の売り上げは期待外れでしたが、12月に新年や春節に向けた在庫補充が行われたため、第4四半期の需要は前四半期比で4%改善しました。しかし中国経済の減速を受けて、依然として見通しは悲観的であり、軽量なアイテムへの移行が続いています。
利幅を確保するために、小売業者はより付加価値の高いアイテムを宣伝してきました。大手ブランドは、ライバルとの差別化を図る独占的な特別コレクションの開発を続けています。宝石、エナメル、さらにはフェザーといったカラフルな素材と金を組み合わせたファッション性の高いデザインが、若い消費者の人気を集めています。
表2:国別の宝飾品需要(トン)
2023年 | 2024年 | 前年比 | 2023年 第4四半期 | 2024年 第4四半期 | 前年同期比 | |||
インド | 575.8 | 563.4 | -2 | 199.6 | 189.8 | -5 | ||
パキスタン | 21.1 | 17.5 | -17 | 5.1 | 4.6 | -10 | ||
スリランカ | 10.5 | 5.8 | -45 | 2.6 | 1.3 | -52 | ||
中華圏 | 671.9 | 511.4 | -24 | 160.9 | 114.3 | -29 | ||
中国:本土 | 630.2 | 479.3 | -24 | 148.4 | 106.2 | -28 | ||
香港特別行政区 | 37.4 | 27.9 | -25 | 11.3 | 7.1 | -37 | ||
台湾 | 4.4 | 4.2 | -4 | 1.2 | 1.0 | -17 | ||
日本 | 16.3 | 15.1 | -7 | 4.7 | 4.2 | -10 | ||
インドネシア | 25.1 | 22.8 | -9 | 8.3 | 7.7 | -7 | ||
マレーシア | 11.3 | 11.5 | 2 | 3.1 | 2.6 | -15 | ||
シンガポール | 7.2 | 6.8 | -5 | 2.0 | 1.6 | -20 | ||
韓国 | 12.2 | 11.7 | -5 | 3.1 | 2.8 | -10 | ||
タイ | 9.2 | 9.0 | -2 | 3.0 | 2.9 | -3 | ||
ベトナム | 15.1 | 13.2 | -13 | 3.8 | 3.3 | -13 | ||
オーストラリア | 11.7 | 8.9 | -24 | 3.3 | 2.9 | -10 | ||
中東 | 171.5 | 157.0 | -8 | 41.0 | 40.8 | 0 | ||
サウジアラビア | 38.1 | 35.0 | -8 | 8.7 | 9.8 | 12 | ||
UAE | 39.7 | 34.7 | -13 | 10.3 | 8.8 | -14 | ||
クウェート | 14.3 | 12.3 | -14 | 3.8 | 3.5 | -7 | ||
エジプト | 26.7 | 26.1 | -2 | 6.0 | 6.3 | 5 | ||
イラン | 27.3 | 26.7 | -2 | 6.1 | 6.8 | 10 | ||
その他の中東 | 25.3 | 22.3 | -12 | 6.1 | 5.6 | -8 | ||
トルコ | 42.2 | 40.9 | -3 | 10.9 | 12.0 | 10 | ||
ロシア連邦 | 39.7 | 41.2 | 4 | 12.1 | 12.4 | 2 | ||
米州 | 180.1 | 175.0 | -3 | 63.7 | 61.4 | -4 | ||
米国 | 136.9 | 132.1 | -3 | 49.1 | 47.1 | -4 | ||
カナダ | 14.4 | 13.8 | -4 | 5.8 | 5.5 | -4 | ||
メキシコ | 13.6 | 13.5 | -1 | 3.8 | 3.7 | -3 | ||
ブラジル | 15.2 | 15.6 | 2 | 5.0 | 5.1 | 1 | ||
欧州(CISを除く) | 70.1 | 67.5 | -4 | 30.2 | 29.0 | -4 | ||
フランス | 14.2 | 13.8 | -2 | 6.0 | 5.9 | -2 | ||
ドイツ | 10.7 | 9.8 | -8 | 4.8 | 4.4 | -9 | ||
イタリア | 18.7 | 17.8 | -5 | 9.4 | 9.0 | -5 | ||
スペイン | 8.3 | 8.6 | 3 | 2.5 | 2.6 | 4 | ||
英国 | 18.2 | 17.4 | -4 | 7.5 | 7.2 | -4 | ||
スイス | - | - | - | - | - | - | - | - |
オーストリア | - | - | - | - | - | - | - | - |
その他の欧州 | - | - | - | - | - | - | - | - |
小計 | 1,891.0 | 1,678.8 | -11 | 557.3 | 493.5 | -11 | ||
その他・在庫変動 | 219.6 | 198.3 | -10 | 63.6 | 53.6 | -16 | ||
世界合計 | 2,110.6 | 1,877.1 | -11 | 620.9 | 547.1 | -12 |
出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブ GFMS、ICE ベンチマーク・アドミニストレー
ション、ワールド ゴールド カウンシル
今後の展望として、金価格が2025年初めも最高値を更新したことから、中国の金宝飾品需要は、減少ペースは緩やかになるにせよ引き続き低迷すると予想しています。業界再編が進むことにより、金宝飾品の卸売需要が圧迫される可能性があります。そして国内経済の減速が続けば、消費者の裁量支出がさらに縮小すると思われます。ただし、指標貸出金利の引き下げにより成長が支えられたり、金価格が安定したりすれば、ある程度は相殺されるかもしれません。
インド
インドの宝飾品需要は、第3四半期は(輸入関税の大幅な引き下げを受けて)2015年以来の好調さでしたが、最終四半期はやや勢いを失いました。金価格の継続的な高さが響き、第4四半期の需要は前年同期比で5%減少しました。通年の需要は2%減の563トンでした。
金価格が何度も過去最高を更新した1年において、年間需要の縮小がわずか2%にとどまったことは、インドの金宝飾品需要の底堅さを証明するとともに、7月の関税引き下げに対する反応の強さと、比較的好調な同国の経済成長を反映しています。多くの消費者が、関税の引き下げが最近の価格上昇の大半を事実上相殺した第3四半期後半のタイミングで、金宝飾品を前倒しで購入しました。
2024年の需要は金額ベースで異例の水準に達しました。年間需要は3兆6,000億インド・ルピーで、その約70%が下半期に発生しました。
第4四半期の需要は、ディワリ祭の購入シーズンのピークに当たる10月下旬から、金価格の顕著な調整局面と婚礼シーズンの始まりが重なった11月に集中しました。
とはいえ、高値で乱高下する金価格のために、需要が精彩を欠く状態が続きました。そして12月中旬にヒンズー教の暦で不吉とされる期間が始まり、年末の数週間は多くの消費者が購入を控えました。
ワールド ゴールド カウンシルでは、婚礼関連の購入が牽引する形で1月半ば以降に金宝飾品需要が徐々に回復すると予想していますが、そのためには価格が安定することも必要です。金価格のボラティリティが高い時期には、需要が抑制されると思われます。
中東とトルコ
トルコの第4四半期の金宝飾品需要は、主に投資の動機が牽引し、2016年以来の高水準となりました。金価格は10月に最高値を更新した後、健全な調整局面に入り、これが購入機会をもたらして需要を喚起しました。今期は好調だったものの、主に金価格の高騰が原因で、年間需要はわずかに減少しました。とはいえ、年間消費量は41トンで、過去10年間の平均と同水準でした。
中東の通年の需要は、金価格の高さと第3四半期のインドの金輸入関税の引き下げが重なって、地域全体で減少しました。後者はインド人が国内ではなく外国で金を購入することの価格的なメリットを減少させ、インド人観光客の需要に打撃を与えました。UAEは市場におけるインド人観光客の重要性が高く、特に大きな影響を受けました。
イランの今期の需要はトルコと似た状況で、消費者は価格の下落を最大限に利用しました。一方、今期のエジプトの需要は前年同期比で増加しましたが、これはインフレ率の低下によるものです。このことと11月の価格の下落が消費者信頼感を押し上げました。
米国と欧州
米国の今期の宝飾品需要は11四半期連続で前年同期を下回り、第4四半期として過去7年で最も低調でした。記録的な金価格と長引く物価高騰圧力が宝飾品の消費に影響を及ぼし、通年の需要は5年ぶりの低水準となりました。特に低所得の人々は、家賃や食費の上昇により裁量支出が失われており、危機感を持っています。
金額ベースの米国の需要は四半期、通年ともに過去最高の水準であり、それぞれ40億米ドルと100億米ドルでした。
欧州では引き続き、消費者センチメントの悪化と景気の低迷によって需要が損なわれました。同地域の金宝飾品消費は2020年以来の最低水準に落ち込みました。ドイツと英国のパフォーマンスが最も低調でした。
欧州の金額ベースの需要は他地域のトレンドとよく似ており、2024年第4四半期は20億ユーロ、通年では50億ユーロと、過去最高に達しました。
アセアン市場
ワールド ゴールド カウンシルが調査対象とするアセアン市場では、2024年を通じて、金価格が消費者にとって大きな課題となりました。通年の減少が特に顕著だったのはベトナムとインドネシアで、両国とも金価格の高さと裁量支出の制約が響きました。ベトナムでは、政府による脱税の取り締まりがさらなる抑止力となりました。一方インドネシアでは、消費者が引き続き、より低カラットのアイテムへと移行しました。
タイはもう少し底堅く、前年比の減少は小幅にとどまりました。力強い国内経済が、特に観光客数の好調さに支えられて、需要減少を抑えることに貢献しました。
マレーシアの2024年の需要は小幅に増加しましたが、これはすべて第1四半期の好調さによるものです。一転して、下半期に市場はかなり軟化しました。特に第4四半期は現地通貨の急落によって10月の金価格の上昇幅が拡大したため、これが顕著でした。
その他アジア諸国
日本の宝飾品消費は、小売価格の上昇と、より広範なインフレ環境を反映して、引き続き制約を受けました。長引くコア消費者物価のインフレが家計を直撃し、金宝飾品のようなアイテムへの裁量支出に影響を与えました。
韓国の金宝飾品需要は、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズにおける最低記録を更新しました。韓国が政情不安に陥り、金融市場が動揺した第4四半期を中心に、ウォンが米ドルに対して急落したことから、通貨安が金価格の高さを助長しました。このことは、予想を下回る経済成長とも相まって、消費者の購入意欲に影響を与えました。
オーストラリア
オーストラリアの金宝飾品需要は6四半期連続で前年同期を下回り、年間需要は4年ぶりの低水準に落ち込みました。記録的な価格水準の継続と、消費者の厳しい環境が、減少の原因となっています。