宝飾品

30 October, 2024

第3四半期の宝飾品消費量は、記録破りの価格高騰のために、トンベースでは前年同期比12%減となりました。金額ベースでは13%増加しました。

  • 今期の宝飾品消費は、金価格が何度も新記録に達して消費者の購入能力が抑制されたため、459トンに落ち込みました。
  • インドは注目すべき例外で、金の輸入関税の大幅な引き下げが価格高騰の大部分を相殺し、消費者は比較的安価に購入できる機会を生かしました。
  • 年初来の世界の宝飾品消費は11%減の1,328トンです。
トン 2023年第3四
半期
2024年第3四
半期
前年同期比%
金饰 520.0 458.6 -12
印度 155.7 171.6 10
中国大陆 154.1 102.5 -33

金価格は第3四半期も異例の上昇を続けました。そのため消費者の購入能力が抑制されて、純金宝飾品のトンベースの購入量が減少しました。コロナ禍のために需要が激減して変則的だった2020年第3四半期を除くと、今期の宝飾品需要は、2000年までさかのぼるワールド ゴールド カウンシルのデータセットの中で、第3四半期としては最も低調でした。

 

図3:金価格の記録更新が相次ぐ

主要通貨建て金価格の日次推移、2024年1月1日を基準に指数化*

図3:金価格の記録更新が相次ぐ

主要通貨建て金価格の日次推移、2024年1月1日を基準に指数化*

図3:金価格の記録更新が相次ぐ
主要通貨建て金価格の日次推移、2024年1月1日を基準に指数化*
データは2024年10月18日現在。 出所:ブルームバーグ、ICEベンチマーク・アドミニストレーション、ワールド ゴールド カウンシル

出所: ブルームバーグ, ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2024年10月18日現在。

ただし、需要が非常に弱かった第2四半期と比較すると、17%回復しました。これは主に、インドで金の輸入関税の引き下げに対するポジティブな反応が生じたことに起因します。

しかし、トンベースの需要とは違い、米ドルベースの金宝飾品消費量は堅調に増加しました。金価格の高騰が需要の軟調さを上回ったのです。第3四半期の平均金価格は2,474米ドル/オンスで、前年同期を28%上回りました。その結果、金額ベースの需要は前年同期比13%増加し、360億米ドルを超えました。このような需要金額の増加が、一部の比較的弱い市場――特に顕著なのは中国――を除いて、幅広い国々で生じたことは注目に値します。

中国

中国は2010年以降で最も低調な第3四半期となり、金宝飾品需要は10年間の平均を36%下回りました。前四半期と同様に、持続的な現地金価格の高さ、消費者心理の低迷、経済成長の鈍化が、この低調さの原因だと考えられます。前年同期比では低調でしたが、七夕祭り、中秋節、国慶節に支えられて、季節的な四半期需要の回復が見られました1

金価格が高騰する中、消費者はすべてのカテゴリーで、次第に軽量な商品を好むようになりました。そして金宝飾品小売業者は、金とその他の素材(エナメル、ダイヤモンド、真珠、フェザーなど)を組み合わせた、画期的で利益率の高い商品の実験的な販売を続けています。このような商品は、鮮やかな色彩や目を奪うデザインで若い消費者に訴求しますが、一般的に純金の宝飾品より金の使用量が少なく、それゆえ手頃な価格です。

小売ブランドはこの環境下で苦戦しており、前四半期と比べれば閉店ペースは鈍化したものの、在庫の削減や店舗の閉鎖が続いています。

今後の見通しとして、第4四半期は、春節に先立つ季節的な下支えと、最近の積極的な景気刺激策が消費に与えるプラスの影響が予想されます。しかし見通しが弱いことは間違いなく、業界再編が続けば卸売需要が減少するかもしれません。 

表2: 国別の宝飾品需要(トン)

  2023年
第3四半期
2023年
第4四半期
2024年
第1四半期
2024年
第2四半期
2024年
第3四半期
前期比変化率(%) 前年同期比(%)
インド 155.7 199.6 95.5 106.5 171.6 61 10
パキスタン 5.7 5.1 4.6 4.3 4.0 -7 -30
スリランカ 2.3 2.6 1.7 1.7 1.1 -37 -52
中華圏 164.3 160.9 195.4 92.1 109.6 19 -33
中国:本土 154.1 148.4 184.3 86.2 102.5 19 -33
香港特別行政区 9.3 11.3 9.8 4.9 6.2 27 -33
台湾 1.0 1.2 1.3 1.0 0.9 -12 -6
日本 4.7 4.7 3.2 3.7 4.0 9 -15
インドネシア 5.9 8.3 5.5 4.3 5.4 25 -9
マレーシア 2.6 3.1 3.9 2.7 2.3 -14 -12
シンガポール 1.6 2.0 2.1 1.6 1.5 -9 -8
韓国 2.8 3.1 3.5 2.8 2.7 -5 -4
タイ 2.5 3.0 1.9 1.9 2.4 24 -5
ベトナム 3.0 3.8 4.1 3.1 2.6 -15 -13
オーストラリア 2.4 3.3 1.4 2.5 2.0 -23 -19
中東 42.3 41.0 42.8 39.2 32.7 -16 -23
 サウジアラビア 10.2 8.7 8.5 8.4 8.3 -1 -18
UAE 9.2 10.3 9.6 9.2 7.1 -23 -23
クウェート 3.4 3.8 3.1 3.1 2.4 -22 -28
エジプト 6.3 6.0 8.0 6.8 5.1 -25 -19
イラン 7.4 6.1 7.2 6.2 5.6 -10 -25
その他の中東 5.9 6.1 6.5 5.4 4.3 -21 -27
トルコ 11.4 10.9 11.3 8.3 9.4 14 -17
ロシア連邦 11.1 12.1 8.3 8.9 11.7 32 5
米州 37.8 63.7 33.1 43.2 37.2 -14 -2
米国 28.6 49.1 24.5 32.6 27.9 -14 -2
カナダ 2.5 5.8 2.7 3.3 2.4 -26 -3
メキシコ 3.3 3.8 3.0 3.4 3.4 -0 2
ブラジル 3.5 5.0 3.0 4.0 3.5 -11 2
欧州(CISを除く) 13.0 30.2 11.0 14.9 12.6 -15 -3
フランス 2.0 6.0 3.2 2.9 1.9 -34 -5
ドイツ 2.1 4.8 1.0 2.5 2.0 -19 -6
イタリア 3.0 9.4 2.4 3.7 2.9 -21 -3
スペイン 1.9 2.5 1.8 2.1 2.0 -6 3
英国 4.0 7.5 2.6 3.8 3.9 1 -5
スイス - - - - - - -
オーストリア - - - - - - -
その他の欧州 - - - - - - -
小計 469.2 557.3 429.5 341.7 412.7 21 -12
その他・在庫変動 50.8 66.1 49.3 49.2 46.0 -7 -10
世界合計 520.0 623.4 478.8 390.9 458.6 17 -12

出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ICEベンチマーク・アドミニストレーション、ワールド ゴールド カウンシル

インド

インドでは、7月の金の輸入関税引き下げを契機に金宝飾品需要が回復し、第3四半期としては2015年以来の好調さとなりました。7月下旬に消費者需要のモメンタムが一気に上向き、9月半ばの不吉なシュラッド2の期間まで力強さを維持しました。

関税引き下げによって8月の金価格上昇の大部分が相殺され、今後の数四半期に予定されている婚礼用の前倒しの購入や、これまでの四半期からの繰延需要が貢献しました。地方都市や農村部では、モンスーン期の天候が良好だったことも力強い成長の追い風になりました。 

プレーンな宝飾品とスタッズ付きの宝飾品はどちらも好調で、一部の消費者は価格下落のチャンスを捉えて、より重量のある宝飾品を購入しました。とはいえ、14Kセグメントの低価格のアイテムは若い消費者に訴求力があり、健全な成長が見られました。 

インドへの密輸金の流入は関税引き下げの効果でほぼ消滅し、国内価格の下落の恩恵を受けて貿易輸入が急増したため、今四半期にディスカウントは縮小しました。 

第4四半期に入り、ダンテラスとディワリの祝祭を迎えて、引き続き需要が支えられる見通しです。金価格に調整が入って下落すれば、購入行動が見られるでしょう。  

 

図4:金宝飾品需要は、金額ベースでは急増するも、トンベースでは落ち込み

四半期別金宝飾品消費量(トンおよび金額)*

米国と欧州

米国の金宝飾品需要は10四半期連続で前年同期を下回り、年初来の需要は2020年以降の最低を記録しました。ただし、トンベースの減少に隠れて目立たないが、金額ベースで見ると、第3四半期の金宝飾品の需要は前年同期を25%上回りました。 

消費者は引き続き物価の上昇による危機感を感じており、間近に迫った大統領選挙が、長引く景気後退懸念とともに消費の重しになっているかもしれません。また、在庫水準が低いため、季節的に好調な第4四半期のホリデーシーズンに向けた在庫補充も進むと思われる。

今期は欧州の金宝飾品需要も価格の高さの影響を受けましたが、過去データと比較すると、コロナ禍前の数年間の第3四半期平均と合致しています。しかし、消費者センチメントの弱さと経済状況の暗さ(特にドイツ)が需要を損ない、一部では金との価格差の持続的な拡大を受けたプラチナへの移行も見られました。 

中東とトルコ

トルコの金宝飾品消費は、現地金価格の上昇が要因で、2四半期連続で前年同期を下回りました。もっとも、絶対値で見れば今期の需要は力強さを保っており、10年間の四半期平均をわずかに上回っています。 

中東全体では、主に金価格の高さが原因で、前年同期比で2桁減少しました。またインドの金の関税引き下げによって、インド人観光客による需要も減少しました。インド国内で、より手頃な価格で金を買えるようになったからです。サウジアラビアでは宝飾品に15%のVATが課されるため、価格上昇の影響がさらに大きくなりました。 

イランでは、金価格の上昇に加えて、裁量支出が他の消費財にシフトしたことも、宝飾品需要の軟化を助長したようです。

エジプトでは、インフレ率が予想外に急上昇したことが、地域紛争の拡大に対する懸念と相まって、消費者センチメントを悪化させました。その結果、金宝飾品需要は2020年第2四半期以来の低水準となりました。

アセアン市場

記録的な金価格の環境下で、ワールド ゴールド カウンシルが調査対象とするアセアン市場の金宝飾品需要は減少しました。ベトナムでは通貨安が国際金価格の上昇に拍車をかけており、このことが、同市場で前年同期比の需要の減少幅が拡大したことの1つの説明になります。  

マレーシアでは、第3四半期の金価格の上昇は通貨高によってほぼ相殺されましたが、消費者が慎重な見方を維持したため、需要は前年同期比で大幅に減少しました。インドネシアの消費者は、価格高騰との釣り合いを取って低カラット商品へのシフトを続けるという形で、金価格の高さに対応しました。

タイの需要は、景気浮揚を目的とした待望の130億米ドル(4,500億バーツ)の「デジタルウォレット」の支給に、現金支給も含まれると発表されたことが1つの要因となり、相対的に底堅さを維持しました。今期末から政府が同プログラムの展開を開始したため、第4四半期の需要が支えられる可能性があります3

その他アジア諸国

日本の金宝飾品の消費者は金価格の上昇を敬遠し、比較的好調だった過去2年の第3四半期と比べると、需要は弱まりました。今期の需要は、コロナ禍以前の第3四半期の平均とほぼ同水準でした。 

韓国の金宝飾品の量は、長期的な減少傾向が続いています。減少ペースは鈍化しましたが、これは比較対象の2023年第3四半期がかなり低調だったことも理由の1つです。

オーストラリア

オーストラリアの金宝飾品需要は、高インフレ率と高金利が引き続き消費者にとって負担となっているため、前年同期比で大幅に減少しました4

 

図5:  金価格の高値更新が続いた四半期に、インドが出色のパフォーマンス 

第3四半期の金宝飾品需要の前年比変化率*

図5: 金価格の高値更新が続いた四半期に、インドが出色のパフォーマンス

図5: 金価格の高値更新が続いた四半期に、インドが出色のパフォーマンス
第3四半期の金宝飾品需要の前年比変化率*
*データは2024年9月30日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2024年9月30日現在。

脚注

  1. 七夕祭り:2024年8月10日、中秋節の連休:2024年9月15~17日、国慶節の連休:2024年10月1~7日。

  2. シュラッドは金購入には不吉とされる期間で、9月17日~10月2日の14日間続く。

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