投資

30 October, 2024

第3四半期は欧米のETF投資家が復活しました。対照的に金地金・金貨は、中国とトルコの不振がインドの勢いを打ち消して前年同期を下回りました。 

  • 投資需要(金ETFと金地金・金貨)は、金価格の上昇に利下げや長引く地政学的混乱が加わって、欧米のETF投資家が動き出したことから、前年同期の2倍以上の364トンとなりました。
  • 世界の金ETFが顕著な流入へと急転回したことが、引き続き活発なOTC投資と併せて、第3四半期の金の総需要の主な牽引役となりました。
  • 金地金・金貨は、いくつかの主要市場における急減が響いて後れを取りました。
トン 2023年第3四
半期
2024年第3四
半期
前年同期比%
投資 156.8 364.1 132
地金&金貨 295.9 269.4 -9
インド 54.5 76.7 41
中国 81.6 62.1 -24
金ETF -139.1 94.6 - -

第3四半期の金投資需要の合計は1年前の水準の2倍以上で、ロシアのウクライナ侵攻を契機に安全な避難先としての金ETFへの流入が急増した2022年第1四半期以降の最高記録となりました。

今四半期の世界のETF需要の好転は、極めて重要な意味を持ちました。今期、欧米に上場するファンドは好転し、米国のファンドは年初来でプラスに転じました。 

金地金・金貨投資は前四半期から横ばいでしたが、1年前の水準には届きませんでした。これは主に、中国とトルコの投資熱が沈静化したためです。これに対し、インドの輝かしい四半期が、多少の埋め合わせになりました。

金のパフォーマンスが何度も見出しを飾ったことから、専門家や機関投資家はFOMO(機会を逃すことに対する恐れ)に苦しめられたようです。「OTC投資およびその他」のカテゴリーは、場外市場でのフローを捉えます。この市場は、地政学的リスクや経済的リスクのヘッジを求める富裕投資家の需要の影響を徐々に受けるようになっています。ここ数四半期の価格のパフォーマンスが、これにさらに拍車をかけています。

OTC需要を直接観察することはできませんが、その代わりに、米国先物市場の投機的投資家のポジションを利用してトレンドを特定することができます。資金運用会社のネットロング・ポジションは今期を通じて増加しましたが、2019年に記録した過去最高値は依然として下回っています。

 

図6:欧米投資家の関心が再び高まり、世界の金ETFへの流入が見られた

世界の金を裏付けとするETF(トン)およびAUM(金額)の四半期ごとの推移*

図6:欧米投資家の関心が再び高まり、世界の金ETFへの流入が見られた

世界の金を裏付けとするETF(トン)およびAUM(金額)の四半期ごとの推移*

図6:欧米投資家の関心が再び高まり、世界の金ETFへの流入が見られた
世界の金を裏付けとするETF(トン)およびAUM(金額)の四半期ごとの推移*
*データは2024年9月30日現在。

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2024年9月30日現在。

ETF

金を裏付けとする世界のETFは、9四半期に及ぶ流出が止まり、第3四半期は95トンの流入となりました。今期はすべての地域で流入がプラスとなり、総運用残高3,200トンで終了しました。上半期に低迷した分をほとんど第3四半期に取り戻し、年初来の運用残高はわずか25トンの減少にとどまります。米ドルベースの世界の運用資産残高(AUM)は2,710億米ドルで、年初来のフローは3億8,900万米ドルのプラスに転じました。金を裏付けとするETFの今期の地域別フローの詳細は、ETFフローに関するコメンタリーをご覧ください。

表3: 国別の合計金地金・金貨需要(トン)

  2023年
第3四半期
2023年
第4四半期
2024年
第1四半期
2024年
第2四半期
2024年
第3四半期
前期比変化率(%) 前年同期比(%)
インド 54.5 66.7 43.6 43.1 76.7 78 41
パキスタン 5.9 5.3 4.8 4.5 4.1 -10 -31
スリランカ - - - - - - -
中華圏 83.1 85.0 113.5 82.2 63.9 -22 -23
中国:本土 81.6 82.7 110.5 80.0 62.1 -22 -24
香港特別行政区 0.3 0.3 0.5 0.4 0.3 -17 -15
台湾 1.1 2.0 2.5 1.8 1.4 -22 28
日本 -0.2 -1.3 -1.0 4.0 0.1 -97 -
インドネシア 6.7 4.3 6.6 4.5 7.3 64 10
マレーシア 1.1 1.6 1.8 1.3 1.3 -2 20
シンガポール 1.1 1.6 1.8 1.6 1.2 -24 12
韓国 3.1 4.6 5.1 4.1 4.2 3 36
タイ 10.5 12.1 5.9 7.2 12.1 67 15
ベトナム 8.8 9.9 14.1 11.8 7.9 -33 -10
オーストラリア 2.6 3.0 2.2 2.9 2.8 -4 8
中東 27.6 24.5 27.2 29.4 24.3 -17 -12
サウジアラビア 3.6 3.6 3.8 3.9 3.3 -15 -8
UAE 3.4 3.1 3.0 3.3 3.6 9 5
クウェート 1.5 1.3 1.5 1.6 1.6 0 5
エジプト 6.3 5.5 5.2 7.6 5.3 -30 -16
イラン 10.4 8.9 11.5 10.9 8.5 -22 -18
その他の中東 2.3 2.2 2.2 2.1 2.0 -3 -13
トルコ 28.4 29.6 45.3 30.8 12.7 -59 -55
ロシア連邦 8.5 7.5 7.4 8.9 9.1 2 7
米州 25.2 28.4 22.5 21.1 21.9 4 -13
米国 22.8 25.9 20.1 18.9 19.9 5 -13
カナダ 1.7 1.7 1.6 1.7 1.4 -17 -18
メキシコ 0.2 0.3 0.3 0.2 0.2 9 -28
ブラジル 0.4 0.5 0.4 0.4 0.4 5 2
欧州(CISを除く) 31.2 30.2 14.3 11.1 18.1 63 -42
フランス 0.6 -0.4 -1.2 -0.6 -0.3 -55 -
ドイツ 11.5 11.3 6.6 -2.0 3.5 -275 -70
イタリア - - - - - - -
スペイン - - - - - - -
英国 3.0 2.1 2.0 2.6 3.5 32 15
スイス 8.0 8.8 1.4 5.1 5.0 -2 -38
オーストリア 0.9 1.1 0.2 0.5 0.6 5 -35
その他の欧州 7.2 7.3 5.2 5.5 5.8 7 -19
小計 298.0 313.0 315.0 268.6 267.7 -0 -10
その他・在庫変動 -2.1 2.0 1.7 4.6 1.8 -62 -
世界合計 295.9 315.0 316.7 273.2 269.4 -1 -9

出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ICEベンチマーク・アドミニストレーション、ワールド ゴールド カウンシル

金地金・金貨

金地金・金貨投資は、前四半期比ではほぼ横ばいでしたが、2023年第3四半期と比べると著しく低調でした。中国、トルコ、欧州が前年同期比の減少を主導し、これがインドやアジアの比較的小規模な市場での成長を上回りました。 

世界の年初来の需要は859トンで、過去4年の同期間と概ね一致しています。しかし金額ベースでは630億米ドルとなり、第1~3四半期合計の最高記録となりました。

注目するべきは、前四半期と同様に欧米投資家は金に強い関心を示し続けた一方で、価格が記録的な水準に達したことから売却への関心も高く、結果的にネット需要が非常に低く抑えられたということです。

中国

中国の金地金・金貨投資は、上半期は非常に好調でしたが、第3四半期に勢いを失いました。しかし、比較対象の前年同期が非常に好調だったために、減少が誇張されている面もあります。より長期の水準と比較すれば依然として堅調であり、年初来の投資は2013年以降で最も好調です。

中国の金地金・金貨投資家は第3四半期に、主に現地通貨の大幅な上昇という逆風にさらされました。安全な避難先の需要が沈静化し、為替ヘッジの必要性が減少したのです。これに加えて、中国人民銀行が最近、金の買い入れの一時停止を発表したことも、投資をある程度抑制したと思われます。  

さらに注目に値するのは、今期後半に、国内株式市場の回復と不動産の信頼改善に焦点を当てた強力な景気刺激策を政府が発表したことを受けて、投資家のリスク選好度が高まり、金への関心が一部奪われたことです。

今後について、第4四半期は緩やかに回復すると予想しています。国内金利のさらなる引き下げが見込まれ、政府の景気刺激策により経済成長が上向く可能性があることは、今後数四半期の金地金・金貨購入という点で、良い兆しとなるはずです。このまま金価格が上昇し続ければ、投資家の関心も高い状態が続くでしょう。 

しかし回復の規模については、ワールド ゴールド カウンシルは慎重な見方を維持しています。投資家のリスク選好度の高まりは、引き続き投資家を金から遠ざけるかもしれません。現地通貨高が続けば、金のヘッジ需要が抑制される可能性があります。そして不動産セクターの回復に向けた施策に勢いがつき始めれば、不動産投資も金と競合することになるでしょう。 

 

図7:金地金・金貨の需要は、中国とトルコを中心とする減少がインドでの増加を上回り、前年同期を下回る

国/地域別の四半期の金地金・金貨需要(トン)および合計(金額)*

図7:金地金・金貨の需要は、中国とトルコを中心とする減少がインドでの増加を上回り、前年同期を下回る

国/地域別の四半期の金地金・金貨需要(トン)および合計(金額)*

図7:金地金・金貨の需要は、中国とトルコを中心とする減少がインドでの増加を上回り、前年同期を下回る
国/地域別の四半期の金地金・金貨需要(トン)および合計(金額)*
*データは2024年9月30日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2024年9月30日現在。

インド

インドの金地金・金貨需要は急増し、第3四半期としては2012年以来の最高記録となりました。関税引き下げを契機とする7月の価格調整によって、多くの投資家の市場参入が可能になり、投資家の楽観論と強気な価格期待を加速させました。

宝飾品需要と同様に、リテール投資も関税引き下げ後の数週間は非常に力強く、9月になると、価格の高騰と不吉なシュラッドの始まりが影響して減速しました。 

 第4四半期から第1四半期にかけての婚礼・祝祭シーズンに金購入を予定していた消費者が、後日宝飾品と交換する前提で、現在の価格を確定させるために金地金を購入したことも、投資需要の1つの要素となりました。

第4四半期も堅調な需要が続いていますが、金価格の持続的な上昇が関税引き下げの効果を相殺しているため、投資家が、金保有量を積み増す機会としての価格調整局面を待つ傾向が強まるかもしれません。とはいえ、インドでは年初来の投資がすでに過去4年の年間合計に近づいており、このまま行けば極めて好調な1年になりそうです。 

米国と欧州

欧米の金地金・金貨投資は、利益確定売りと新規投資のせめぎ合いが続いたことを反映して、今期も1年前の水準を大きく下回りました。 

米国の金地金・金貨投資は3四半期連続で前年から減少しましたが、減少ペースは著しく鈍化しました。金価格の高騰は、引き続き二重の効果をもたらしています。この1年で見られた力強いリターンに惹かれて市場に参入する投資家がいる一方で、保有する金の一部を売り戻して価格高騰のチャンスを生かそうとする投資家もいます。 

コストコの小売ネットワーク全体での金地金・金貨の売り上げが引き続き支えとなり、土台となる需要は依然として健全で、コロナ禍以前の典型的な水準を大幅に上回っています。 

欧州の投資は前年同期比では急減しましたが、売り戻しが急増し始めた2023年初頭以降では初めて、前四半期を上回りました。 

今期はドイツで現金化の動きが減速しました。これはおそらく、金の利益を換金したいと考えた多くの投資家がすでにそれを完了していたことと、さらなる金価格上昇を期待して様子見を選択する投資家もいたことが理由と思われます。おそらく金価格が何度も最高値を更新して、強気の価格期待に拍車がかかったために、今期の後半には金購入への関心が再燃しました。 

しかし金利の高さと金価格の極端な高さが、長引く物価高騰に直面する消費者の購入能力を抑制しており、需要は相変わらず逆風にさらされています。

中東とトルコ

第3四半期のトルコの金地金・金貨投資は、長期平均と比べれば健全な水準でしたが、過去8四半期が異例の力強さだったことを考えると低調に見えます。 

 国内金利の高さが貯金口座の相対的な魅力を高めたことから、金需要は引き続き圧迫されました。同国の金価格のプレミアムは、需要と連動して急激に縮小しましたが、その後、金価格の急騰と地域の地政学的緊張の高まりによって金地金・金貨への関心が再燃したため、今期の終わりにかけて復活しました。 

中東の投資需要は、長期平均と比べれば健全な水準ですが、比較的好調だった2023年第3四半期と比べると減少しました。 

地域全体の減少に隠されているものの、UAEでは地域的な緊張の高まりと強気の価格期待が投資を促し、前年同期比で改善しました。 

エジプトとイランはともに、地域全体のパフォーマンスを下回りました。エジプトでは、経済状況の影響で、消費者には投資できる余剰収入がほとんどありませんでした。一方イランでは、消費者は金投資よりも裁量支出に収入を回しました。 

アセアン市場

第3四半期は、世界的な地政学的緊張、国内の政治経済に関する懸念、強気な価格期待が、アセアンの投資家の金への意欲を支えました。タイ、インドネシア、マレーシアは、いずれも前年同期比で2桁の成長を記録しました。対照的に、ベトナムは例外的で、価格の急騰が新規購入を抑制して需要が低迷しました。 

その他アジア諸国

日本の金投資市場は、第2四半期の数値が上方修正されたことに続いて、第3四半期はほぼ完璧な均衡状態になりました。四半期の前半は旺盛な純購入意欲がありましたが、おそらく為替動向に関連して7/8月に現地価格に下落の調整が入り、四半期後半に急激な上昇トレンドが再開したことから、9月には売却に置き換わりました。

韓国では、安全な避難先を求めて金地金・金貨の購入が増加しましたが、金価格の上昇幅の大きさから、ある程度の警戒も促されました。 

オーストラリア

オーストラリアの金地金・金貨投資は、引き続き過去6四半期の2~3トンの範囲に収まりましたが、その上限近くで推移しました。金の値動きが、新規投資と利益確定売りの両方を後押ししたと見られます。 

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