中央銀行

30 April, 2024

中央銀行の金需要は倍増し、第1四半期としては過去最高となりました。

  • 第1四半期の中央銀行の正味需要合計は290トンとなり、第1四半期としては過去最高を記録しました1
  • 引き続き、幅広い中央銀行が金購入を発表しており、中国、トルコ、インドが中心となりました。
  • 2024年が力強いスタートを切ったことは、同年の中央銀行の需要が堅調を維持するというワールド ゴールド カウンシルの見解を裏付けています。
トン 2022年第4四
半期
2023年第4四
半期
  前年同期比%
中央銀行&その他機関 286.2 289.7 1

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

 2022年と2023年の中央銀行による金購入が年間1,000トン超へ加速したことで、市場はようやく金需要における中央銀行の寄与の重要性を理解し始めています。多くの関係者は、中央銀行が両年の年間金需要の約25%を占めたことを踏まえ、最近の高金利と米ドル高という困難に見える環境にあっても金が好調なパフォーマンスを示している主な理由として、中央銀行の旺盛な金需要が続いていることを挙げています。

過去2年間の高いハードルや、金価格の再上昇にもかかわらず、2024年も活発な金購入は続いています。世界の金準備高は正味290トン増加し、ワールド ゴールド カウンシルの2000年までさかのぼるデータの中で第1四半期合計としては最高となりました。これは以前の第1四半期の最高記録である2023年(286トン)を1%上回り、5年間の四半期平均(171トン)を69%上回りました。

中央銀行による金購入は、根強い長期的なトレンドであるだけでなく、新興国市場の中央銀行が中心であるという傾向も続いています。10行の中央銀行が第1四半期の金準備高の増加(1トン以上)を発表しており、これらすべての中央銀行が過去数四半期にわたって活発な金購入を続けています。

第1四半期の買い越しの大半を占めたのは東アジアと中央アジアの中央銀行でした。中国人民銀行は最近の勢いを第1四半期も維持しており、今四半期の金準備高が27トン増加したと発表しました。

 

図8:中央銀行の金購入の勢いは2024年も続いている

中央銀行買い越し量、トン*

図8:中央銀行の金購入の勢いは2024年も続いている

図8:中央銀行の金購入の勢いは2024年も続いている
中央銀行買い越し量、トン*
*データは2024年3月31日時点。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

*データは2024年3月31日時点。
出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

 これにより金準備高は17ヵ月連続の増加となり、同行が発表した金保有量は2,262トン(毎月の増加量の発表を再開した2022年10月末時点を16%上回る)に増加しました。このデータは、中国人民銀行が発表する金準備高が連続して増加した月数が過去最長に達したことを示しています。中国人民銀行の金購入と金価格の上昇によって、同行の準備資産全体に占める金の割合は4.6%近くに上昇しました。これは2022年10月時点の3.2%を大幅に上回っています。

インド準備銀行の金準備高は第1四半期に19トン増加し、増加幅が昨年の年間買い越し量(16トン)を上回りました。その他に東アジアと中央アジアで目立った買い手は、カザフスタン国立銀行(16トン)、シンガポール金融管理局(2トン、先進国市場で金準備高を積み増した唯一の中央銀行)、オマーン中央銀行(4トン)、キルギス共和国国立銀行(2トン)でした。

欧州では、チェコ国立銀行(5トン)とポーランド国立銀行が(1トン)の2行が第1四半期に金準備高の増加を発表しました。中東では、カタール中央銀行が、今四半期の金準備高が2トン増加したと発表しました。

それ以外の地域では、トルコ中央銀行が第1四半期を通じて金の備蓄を継続しました。同行は30トンを買い増し、金準備高は570トンとなりました。需要の高まりによって国内の金市場で逼迫が続いていたにもかかわらず、昨年3月のような金売却が繰り返されることはありませんでした。現在、トルコ中央銀行は10ヵ月連続で金を購入しているため、金準備高は増加し、1年前の水準に近づいています2

 

図9:第1四半期の金購入量は金売却量を上回り、トルコ、中国、インドが中心となった

年初来の中央銀行の買い越しおよび売り越し量(国別)*

図9:第1四半期の金購入量は金売却量を上回り、トルコ、中国、インドが中心となった

図9:第1四半期の金購入量は金売却量を上回り、トルコ、中国、インドが中心となった
年初来の中央銀行の買い越しおよび売り越し量(国別)*
*データは2024年3月31日現在(入手可能な場合)。注:図には1トン以上の正味購入/売却のみ記載。 出所:国際金融統計(IMS IFS)、各国中央銀行、ワールド ゴールド カウンシル

*データは2024年3月31日現在(入手可能な場合)。注:図には1トン以上の正味購入/売却のみ記載。
出所:国際金融統計(IMS IFS)、各国中央銀行、ワールド ゴールド カウンシル

 第1四半期に発表された金の減少量(1トン以上)は合計25トンでした。しかし、内訳を見ると、ウズベキスタン中央銀行(14トン)とタイ銀行(10トン)が大部分を占めています。ただし、タイ銀行については、「金の減少は売却によるものではない」ことに留意が必要です。さらに、タイ銀行は以下のように述べました。「2024年3月29日以降、通貨として保有する金の量を修正します。この修正は、外貨準備における金はIMFへの報告と整合性をとり、IMFの定義に従い、純度99.5%以上の金のみを計上することを目的としています」3。売却が目立ったのはフィリピン中央銀行(2トン)でしたが、上記の減少量に比べると非常に小幅なものとなりました。

4月、ブルームバーグは、カザフスタン国立銀行が金価格の「ポジティブな動向」を理由に金売却を再開する可能性があると報じました。しかし、同行は、準備高全体に占める金の割合を50~55%に維持する予定であることも示唆しました。この種の報道は初めてではなく、同行は外貨準備高の最適化を継続することを明確にしています。2011年以降、カザフスタン国立銀行は、国内で生産されたすべての金を購入する権利を有しています。また、同行の外貨準備高において、金は大きな割合を占めています。これらを踏まえると、金は随時売却される可能性があると予想されます4

未報告の購入量(ゴールド・デマンド・トレンドが示す四半期データと、中央銀行がIMFなどの公的情報源を通じて発表した購入活動の差異)は2022年以来の水準に急増しました。発表データには遅れがあるため、購入活動の詳細が今後明らかになる可能性があります5

第1四半期は金市場にとって興味深い四半期となり、中央銀行は長期的に金購入を続けるというコミットメントを明確にしました。最近の価格上昇は、金準備高をより積極的に管理している中央銀行の取引執行に影響を及ぼした可能性があるものの、ワールド ゴールド カウンシルは、それが中央銀行の戦略的な金の備蓄計画が頓挫する要因になる可能性は低いと予想しています。しかし、現在の価格水準が中央銀行の活動にどのような影響を与えるか(あるいは与えないか)について検討を深めるには、より多くのデータが必要となります。したがって、ワールド ゴールド カウンシルは、中央銀行が今後数四半期にわたって買い越しを継続し、金を下支えする大きな柱の一つになるという見方を維持します。詳しくは「今後の見通し」セクションをご覧ください。

脚注

  1. 本稿執筆時点で公表済みのデータ。ゴールド・デマンド・トレンドの目的において、中央銀行需要とは、各国中央銀行および(該当する場合、IMFや主権国家資産ファンドなどの超国家的組織を含む)その他の公的機関による純購入量(総購入量から総売却量を差し引いた量)として定義されている。ワールド ゴールド カウンシルの四半期ごとの中央銀行需要データはメタルズ・フォーカスから提供されたものであり、公共分野の活動に関する独自の推定値には、IMF IFSレポート、国際貿易データなどさまざまな情報源が組み込まれている。そのため、IMF IFSレポートで公表されたデータは、ゴールド・デマンド・トレンドで取り上げるデータのサブセットとなっている。いずれのデータセットも、新しい情報が入手できた場合や、公的機関の発表データの遅れや更新に対応するため、改訂される可能性がある。

  2. トルコの公的部門の金準備は、中央銀行が保有する金と財務省が保有する金の合計である。これは金準備の合計から、中央銀行が商業セクターの金政策、例えばリザーブオプションメカニズム(ROM)、担保、預金、スワップ等に関連して保有する金を差し引いたものに相当する。この方法論に関する情報は、次のリンク先を参照のこと:www.gold.org/download/file/16208/Central-bank-stats-methodology-technical-adjustments.pdf

  3. カザフスタンは2022年(入手可能な最新データ)において世界第15位の金生産国。詳しくは以下を参照:国別の鉱山生産量 | ワールド ゴールド カウンシル

  4. ほとんどの中央銀行はデータを定期的に発表しており、ワールド ゴールド カウンシルのデータは2ヵ月遅れで更新される。しかし、公的機関の発表が遅延することや、最新の金保有量が数ヵ月にわたって発表されないことは非常に多い。このような場合、金の購入量と売却量は大幅に遅れて発表される。その大部分は中央銀行の発表の遅延によるものである。

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