投資

30 April, 2024

今四半期の金投資(OTCを除く)は、ETFの流出が金地金・金貨需要の緩やかな増加を上回ったため、199トンと大きく減少しました

  • 今期、世界の金ETFの運用残高は114トン減少しました(60億米ドル減)。
  • 今期の金地金・金貨投資は前年同期比3%増の312トンでした。
  • 136トンのOTC投資と3月に記録した金の過去最高値が総需要に大きく貢献しました。
トン 2022年第4四
半期
2023年第4四
半期
  前年同期比%
投資 275.3 198.6 -28
地金&金貨 303.9 312.3 3
インド 34.4 41.1 19
中国 65.9 110.5 68
金ETF -28.6 -113.7 -

出所: ブルームバーグ、企業発表、メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

 今期、金投資(OTCを除く)は前年同期比で28%減少しました。金地金・金貨投資の全体的な堅調さは、単純に小型の金地金の需要が増加したことによるもので、それを金貨需要の低迷が相殺する結果となりました。これは東西の投資行動の違いを部分的に示すもので、今期の金投資のあらゆる分野で見られ、欧米の投資家による利益確定売りとアジアにおけるほとんど一方向の投資需要という対照的な相違です。  

 

図5:2024年第1四半期、北米の金ETFは減少

金を裏付けとするETFの四半期ごとの推移*

図5:2024年第1四半期、北米の金ETFは減少

図5:2024年第1四半期、北米の金ETFは減少
金を裏付けとするETFの四半期ごとの推移*
*データは2024年3月31日時点。 出所: ブルームバーグ、企業発表資料、 ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

*データは2024年3月31日時点。
出所: ブルームバーグ、企業発表資料、 ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

世界の金ETFは、8四半期連続で流出となりました。ETF運用残高が114トンの減少になったにもかかわらず、金の堅調な価格パフォーマンスのおかげで、運用資産(米ドル換算)は約2年ぶりの高水準である2,220億米ドルに増加しました。

「OTC投資およびその他」のカテゴリーを合わせて考慮すると、グローバル投資の全体像が見えてきます。これには、(通常は店頭で取引が行われる中央銀行の取引以外の)OTC市場での投資活動も含まれます。OTCは依然として世界需要におけるかなり大きな要素であり、今期は136トン、昨年初めからの四半期平均は120トンとなっています。捉えにくい性質の取引であるため、推計や詳細な分析は困難です。

OTC需要を直接調べることは困難でも、米国先物市場における投機的投資家のポジションから推察できます。資産運用会社が保有する正味買いポジションは3月の間に急増し、今期末には約540トンと2年ぶりの高水準に達しました。同様な動きは四半期末において中国の先物市場でも観察され、4月はさらに堅調であった。ワールド ゴールド カウンシルが昨年報告した変化のように、OTC取引高には、いくつかの市場における富裕層の購入や、アジア市場での健全な在庫積み増しも含まれています。

ETF

今期、世界の金ETFは114トン減少し、総運用残高は4%減の3,113トンになりました。今期の流出は60億米ドルでしたが、今期の価格上昇率8%を加味すると、運用資産残高の総額は4%増の2,220億米ドルになります。月別の内訳を見ると、3月の減少は1月や2月に比べるとはるかに小さく、流出に急ブレーキがかかったことが分かります。

地域レベルでは、米国と欧州の上場ETFの運用残高がともに4%減少しました。

トンベースでは、北米が最大の減少を記録しました。これは、最大かつ最も流動性の高い資金が存在する地域であるためです。運用残高の68トンという減少は1月と2月に集中し、3月にはわずかに反転して、3億6,000万米ドル(+5トン)という控えめな月間流入がありました。

今期の大半で、投資家は米国の労働市場の底堅さと予想を上回るインフレ動向に注目していたようで、それが利下げに対する期待をさらに後ろ倒しにした。株式市場が好調であったことも、投資家の関心を金から一段と引き離した。3月中旬の好転は金価格の上昇に反応したものであり、これがオプション市場を活性化し、今期終盤の数週間にかなり大量の流入を招くことになりました。
3月初めにドルと米国債の利回りがともに下落したことが流入に拍車をかけたほか、「(堅調な労働市場自体は)利下げを見送る理由にはならない」というFRBの見解も一役買いました。1

 

図6:東洋市場が欧米市場から金地金・金貨投資市場のシェアを奪う

四半期ごとの正味金地金・金貨投資、トンベース、四半期平均金価格(米ドル/オンス*)

図6:東洋市場が欧米市場から金地金・金貨投資市場のシェアを奪う

図6:東洋市場が欧米市場から金地金・金貨投資市場のシェアを奪う
四半期ごとの正味金地金・金貨投資、トンベース、四半期平均金価格(米ドル/オンス*)
*データは2024年3月31日時点。 Source: Metals Focus, ICE Benchmark Administration, World Gold Council

*データは2024年3月31日時点。
Source: Metals Focus, ICE Benchmark Administration, World Gold Council

 第2四半期初めに米国のファンドへの一時的な流入が起きたことから、さしあたり金価格の上昇がさらなる大幅な流出を抑え込んでいると考えられます。

欧州の上場ファンドの動きは北米の上場ファンドと大差はありません。今期の運用残高は54トン減少しました。1月と2月の流出は、米国と同様の理由によって引き起こされました。すなわち、投資家がECBによる金融政策転換への予測を調整したことと、域内株式市場が上昇したことです。

ただし米国とは対照的に、欧州では3月に流出が加速しました。そのほぼすべてが英国上場ファンドの流出によるもので、流出のパターンは金価格の上昇が一服したのと同じ時期に起きた利益確定売りを反映していると思われます。欧州の他の地域では、3月にドイツとフランスの上場ファンドで小規模な流入がありました。

アジアの上場ファンドでは、4四半期連続でノンストップの流入を記録し、今期の増加は10トン(6億9,600万米ドル)となりました。その増加分の大半を生み出したのが、自国通貨安と国内株式市場の低迷という状況で投資家の関心が金に集まった中国でした。日本も、驚異的な高さの円建て金価格の下で、限定的ながらもプラスのフロー(+2トン)を記録しました。他の地域の上場ファンドは、南アフリカの小幅な増加がトルコの小幅な減少によって相殺されるなど、今期はほとんど変化がありませんでした。

金地金・金貨

今四半期の世界の金地金・金貨投資は312トンで前四半期とほぼ同じであり、前年同期比では3%の増加でした。金価格の動きは、5年平均の268トンを17%上回る旺盛な需要を支えるのに貢献しました。

すでに記したように、欧米と東洋の市場では、金投資に対照的な傾向が見られます。今期も例外ではありませんでしたが、それぞれに一定の変化が見られました。通常、東洋市場の投資家は価格に敏感であり、急激な上昇に対しては(一時的停滞や価格調整を購入機会として待ち)模様眺めを決め込むか、利益確定売りに出て金投資を現金化するなど、なんらかの反応を示す傾向があります。欧米の投資家は伝統的に、価格上昇に魅力を感じ、上昇相場で買いに走る傾向があります。 

今期は、この傾向が逆転しました。アジアや中東では、利益確定売りや売り戻しの顕著な増加が見られず、投資需要が大幅に伸びました。対照的に、米国と欧州の投資家はそれとは異なるアプローチを取りました。金地金や金貨に対する投資需要は依然として堅調ながら、金価格が何度も過去最高値を記録する中、投資家は、保有する金から利益を得ようと利益確定売りに動きました。

中国

今四半期、中国の金地金・金貨需要は110トンに急増し、前年同期比は68%増となり、四半期合計としては7年ぶりの高水準となりました。価値保全ニーズや季節性贈答需要、きわめて好調な金価格パフォーマンスが投資家を惹き付けました。

今年(2024年)1月と2月に自国通貨が下落したことや、(主に1月の)不動産市場や株式市場のボラティリティに対する懸念から、中国の投資家は価値の保全を求めるようになり、金需要が刺激されました。春節に関連した購入が需要を押し上げ、投資家は竜をテーマにした金地金や金貨に対して強い購買意欲を示しました。

3月に金価格が驚異的な上昇を見せたことも、さまざまな代替投資の不振に苦しんでいた投資家を惹き付けることになりました。さらに、中国人民銀行による金購入継続の公式発表は、小規模「平均的」投資家や富裕な投資家の、金に対する肯定的な見方を一段と強化することになりました。  

金価格の高騰を受けて、現地プレミアムは3月中には縮小したものの、今期の平均プレミアムは40米ドル/オンスは第1四半期としては過去最高となり、中国の投資購入の力強さを示す新たな証拠となりました。  

中国の金地金・金貨投資は今後数四半期にわたって堅調な状態が続くものと思われます。中国は経済回復を後押しするために、金融緩和政策を続ける可能性があります。したがって、利回りが低下傾向にある中、国内の投資家にとって金は引き続き魅力的な投資対象となるはずです。住宅市場の低迷や世界的な地政学的緊張が続いていること、また中央銀行による金購入の継続からも、金に対する投資家の関心が続く可能性があります。そうは言っても、金価格の変動幅が急激に拡大すれば、投資家が行動を取るのを思いとどまる可能性があり、中国経済の成長が滞れば、家計や金の購入能力にも影響が及ぶおそれがあります。

インド

今四半期、インドの金地金・金貨投資は健全なレベルで推移し、前年同期比19%増の41トンになりました。これは、第1四半期として2014年以来の高水準に達した2022年第1四半期と同等の数字でした。

昨年の第4四半期にインドで見られたパターンが繰り返され、投資家は2月の価格調整は一時的であり、需要が刺激され、その後リバウンドが起こるだろうと期待しました。その後の急激な価格上昇によって、こうした前向きな価格期待が再確認されました。金価格が続けて過去最高値を記録したことで、投資家は上昇傾向の継続を期待して上昇相場で買いを進めていきました。

金地金・金貨投資の堅調さは、インド金市場全体の市場心理にも影響しました。今期、ETFにはプラスの流入(+2トン)があり、また今期中に2つの新しいファンドが設立され、これらの商品には継続的な成長が見られました。

金に対する投資家心理は依然として前向きですが、4月から6月にかけて行われる国内総選挙の影響で需要が抑制される可能性があります。データからは、特に金と現金の動きに対する監視が厳しくなるため、総選挙前になると金の消費が減少する傾向にあることが読み取れます。

金価格がさらに急騰すると利益確定売りを誘発することになって短期的には逆風となる可能性があり、値ごろ感が抑制されて購入量が減少することが考えられます。

中東とトルコ

トルコの金投資需要は44トンと引き続き大幅な増加となりました。金地金・金貨投資は、国内価格の急騰にも関わらず、前四半期比で50%増加しました。ただし前年同期比は、四半期としての過去最高を記録した昨年の第1四半期から12%のマイナスとなりました。今期の需要をトンベースで見ると、5年間の四半期平均24トンを89%上回ることになります。また、トルコ・リラ建て金額ベースでは、前年同期の580億トルコ・リラから、記録的な910億トルコ・リラへと増加しました。

 極度のインフレや国内の政治的緊張、世界の不安定な地政学的状況、マイナスの実質金利などの環境下で、安全な避難先やインフレヘッジとしての金への投資が引き続き活発です。

公式の輸入許可を受けた金地金の量を月間12トンまでとする、割り当て制限が続いているにもかかわらず、需要は依然として旺盛です。その結果、今期前半は50~100米ドルの範囲であった現地プレミアムが3月には200米ドル以上に上昇しました。

中東地域の金地金・金貨投資は26トンで、昨年第1四半期の非常に高いベースに対して前年同期比で15%減少しました。需要は前四半期からほとんど変わらず、過去5年間の平均19トンを35%上回りました。

中東地域最大の金地金・金貨市場であるイランでは、地域の緊張が高まる中で、旺盛な需要が続きました。今期の投資は12トンに達し、プレミアムは約2倍となり、3月末までに約10~15%になりました。ただし、前年同期比はマイナス11%で、昨年第1四半期の旺盛な需要によるベース効果が反映されています。

投資家が、金価格の上昇が止まることや調整に入るのを待っていたため、UAEの投資需要は前年同期比で10%減少しました。とは言え、安全な避難先としての魅力が、この市場の需要を支える強固な基盤となっています。

 
他の地域では、エジプトで経済状況が改善したことで、金投資家にとっては安全な避難先という魅力が弱まりました。IMFによる救済と通貨の変動相場制を背景に経済心理は大きく上向いたものの、変動相場制は今期の大半で国内金価格の下落を引き起こしました。こうした要因が重なって、金需要は前年同期比36%減の5トンまで落ち込みました。

 

図7:2024年第1四半期、目を見張る値に達したトルコの投資需要

トルコの四半期別金地金・金貨正味投資(トン、米ドル)*

図7:2024年第1四半期、目を見張る値に達したトルコの投資需要

図7:2024年第1四半期、目を見張る値に達したトルコの投資需要
トルコの四半期別金地金・金貨正味投資(トン、米ドル)*
*Data as of 31 March 2024. Source: Bloomberg, Metals Focus, ICE Benchmark Administration, World Gold Council

欧米

米国と欧州の投資市場では今四半期、新たな金地金・金貨の購入が小幅ながら減少し、同時に売り戻しが急激に増加しました。その最終的な影響は、今期全体(正味)で金地金・金貨の数量が急激に減少したことに現れています。

ワールド ゴールド カウンシルは、昨年最後の数週間に米国の投資が減少したことを指摘しましたが、その傾向は、利益確定売りが大幅に増加したことで、今年に入っても続いています。ただし、金地金・金貨が前年同期比で44%減の18トンになった理由の一つにベース効果があります。つまり、昨年第1四半期の33トンは、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズの中でも第1四半期の最高記録だったのです。

米造幣局が発表した1月のイーグル金貨の売上が例年通り増加していることが示すように、購買意欲は引き続き堅調でした。イーグル金貨の2024年シリーズの発行が原動力となっているとはいえ、このデータは、新しい金貨を吸収できるほど旺盛な需要が市場に存在していると解釈することができます。中東とウクライナで続く紛争に対する懸念が解消されない中、多角化戦略の必要性や、最近のコストコの金地金市場への参入による(小規模ながら)有効な後押しで、需要は健全なレベルで推移してきました。2

ところが、そこに生じたのが現金化の急増です。昨年第1四半期の需要に火をつけた地方銀行の破綻がなかった今期、投資家が金価格の記録的高値が続く状況を見逃す手はないと判断したことがその背景にあります。

プレミアムの下落は、過去4年間の大半においてほぼ一方向であった市場に堅調な双方向の動きが現れ、市場力学に緩みが生じたことを反映しています。

欧州の投資トレンドは米国の投資トレンドの引き写しです。金価格の上昇に伴って、健全な水準の新規購入が売り戻しの波に呑み込まれ、四半期全体としての需要は減少しました。記録的な金価格が利益確定売りを促し、地域としての需要は18トンで、昨年の第1四半期の半分に留まりました。

ドイツの投資市場では活発な双方向の取引が報告されていて、総需要は7トン(前年同期比48%減)となりました。3月には、ドイツの金投資商品のプレミアムが低下し、市場力学が変化したことが明らかになりました。

アセアン市場

通貨安は、ワールド ゴールド カウンシルがゴールド・デマンド・トレンドで追跡しているアセアン市場共通のテーマです。通貨安によって、安全な避難先としての、また富の保全手段としての金需要が高まり、現地通貨建て価格によるきわめて高い収益に投資家たちは惹き付けられました。

今四半期ベトナムは、14トンあまりという2015年以来の旺盛な金地金・金貨需要を記録しました。地元投資家は、特にインフレを促進するとされているエネルギー価格の高騰やドルに対する現地通貨の下落に直面して、今期の金の傑出したパフォーマンスに魅了されました。金地金のプレミアムは、650米ドル/オンスの記録を達成したとの報告がありました。こうした厳しい市場状況に対処するため、ベトナム政府は金の供給制限を緩和し、ベトナム国家銀行(SBV)は4月下旬に市場での金地金の競売を再開する予定です。

 タイの金地金・金貨投資は前年同期比10%増の6トンでした。今期、バーツ安が続いたことで、現地金価格の上昇が国際価格の上昇を上回る結果になりました。そのことが投資家の目に止まったものの、特にオンライン金取引プラットフォームの台頭によるカニバリゼーションの影響で金地金や金貨の需要が一定程度目減りしたことで、国内需要は依然、コロナ禍前の水準を大きく下回っています。

その他アジア諸国

今四半期、金価格が何度も過去最高値を記録したにもかかわらず、日本での売り越しはわずか1トンとささやかなものでした。若い世代の間における投資熱の高まりと、はるかに安い価格で金を入手した年長者たちの間で広まっている現金化の動きが呼応するトレンドが継続しています。

記録的な金価格の高騰は、韓国の投資家の関心を集め、金地金・金貨需要は前年同期比27%増の5トンになりました。これは、韓国の投資にとって過去2年あまりで最も好調な四半期となりました。

オーストラリア

今四半期、オーストラリアの金地金・金貨需要は前年同期から半減して2トンとなりました。オーストラリアの金地金・金貨投資家は価格上昇に対し、欧米市場の投資家と同じような反応を示しました。購買意欲は引き続きありましたが、利益確定売りが増加しました。

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