宝飾品消費量は金価格高騰の中、堅調さを維持しました。
- 今期(2024年第1四半期)の金宝飾品消費量は479トンで、前年同期比2%の減少でした。
- 当初は1月と2月の穏やかな価格調整に助けられましたが、3月に価格が上がり始めると需要は減少しました。
- 前例のない価格水準のため、第2四半期に入ってもこれまでのところ、宝飾品需要は圧迫され続けています。価格が下がれば購入が促される可能性はありますが、前年同期を上回ることはないと思われます。
30 April, 2024
トン | 2022年第4四 半期 |
2023年第4四 半期 |
前年同期比% | |
世界合計 | 488.9 | 479.0 | -2 | |
インド | 91.9 | 95.5 | 4 | |
中国 | 195.6 | 184.2 | -6 |
出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル
今期の金宝飾品の世界需要は479トンで、過去5年間の第1四半期平均である465トンを約3%上回りました。
昨年の第1四半期に比べ、量としてはわずかに減少しましたが、需要金額を見ると、価格が高騰しても消費者は金宝飾品支出に対して消極的にならなかったことを裏付けるものになっています。今期の世界の金宝飾品消費額は前年同期比7%増の320億米ドルで、第1四半期としては(量としては最近の水準をはるかに上回っていた)2013年以来の最高額となりました。
今期は、好調だった1月と2月に対して3月は非常に低調で、前半と後半で明暗が分かれた四半期でした。今期最初の2ヵ月間は金価格が比較的安定していたことが需要を助けました。2月中旬までに、米ドル建て価格は約4%の緩やかな下落となりました。この価格下落が旧正月前に起こったことを考えると、アジア市場の宝飾品消費者を惹き付けるのに良いタイミングであったと言えるでしょう。ところが3月に入ると金価格の急騰によって需要が落ち込み、一部の市場では前年同期比がマイナスに転じてしまいました。
今四半期、中国の金宝飾品需要は合計184トンで、非常に好調だった昨年同期に比較すると6%減となりました。しかしながら、需要はコロナ禍前数年間の典型的水準とほぼ一致しており、過去10年間の平均である162トンを13%上回りました。
今期、中国の金宝飾品の売上はまるでジェットコースターのようでした。多くの卸売業者や生産者にとって今年の1月は、春節関連の季節的支出、金価格の若干の低下、縁起の良い辰年を象徴する品々の人気の高さ、さらに、通貨安や株式市場の低迷などが重なり、富の保全手段としての金宝飾品に対する注目の高まったこともあり、記録上最も慌ただしい年の始まりとなりました。その好調さが、春節による売上増加と継続的な価格の安定に助けられ、2月に引き継がれました。
しかし3月になると状況は一変しました。金価格の突然の高騰と、春節後に必ず訪れる景気の一時的落ち込みという二重苦により、需要が崖から落ちるように急激に減少したのです。非常に好調だった昨年の第1四半期との比較によるベース効果もあり、前年同期比は純減となりました。それでも、金額ベースでは約900億人民元と大幅増となり、中国の宝飾品需要としては前例のない327トンを記録した2013年第2四半期の総額920億人民元に次ぐ2番目の記録となりました。
24K硬質純金商品と伝統的な金宝飾品は今期も他のカテゴリーを上回りました。それを後押ししたのが業界のデザイン改革です。各種宝石やダイヤモンドのインレイが持つ美しさがこれらの宝飾品の人気を高めました。その一方で18Kや22Kの商品は、特に消費者が金宝飾品の資産価値に注目するようになったことで、高カラット商品にさらに市場シェアを奪われました。一般に、価格高騰に対して消費者は、軽量で低価格の品への嗜好を強め、人件費が安い商品を求めるようになります。
3月の需要低迷は、これまでのところ第2四半期に入っても続いています。ワールド ゴールド カウンシルの現地調査によると、4月には現地金価格が過去最高記録を更新し続けているため、消費者は購入を手控えており、小売業者は例年賑わいを見せる労働節の連休を前にして、在庫を補充するかどうか慎重に見きわめようとしています。消費者需要の低迷は、小売セクターのネットワーク拡大計画を抑制することとなり、今後数ヵ月は出店数が減少する公算が高まっています。
通常第2四半期は金宝飾品消費に関してはオフシーズンであるという事実から、需要がさらに圧迫される可能性があります。それでもなお24K硬質純金商品は、軽量化により総単価が下がり、夏物の衣服に合うため、他のカテゴリーよりも良好な結果をもたらすことが予想されます。
インドの金宝飾品需要は、比較的低調だった昨年の第1四半期を4%上回りました。インドのマクロ経済環境が引き続き好調なことも金の消費を支えました。インドの地方・農村部の需要は、ここ数四半期はコロナ禍の影響の払拭に都市部より遅れたことで低迷していましたが、今は同様の成長を示しています。
需要の早期改善は、1月後半からプレミアムを生み、2月後半まで持続した現地金価格が明確に示しています。その後3月に入り、価格急上昇が需要の減少を招いたため、現地価格は急激なディスカウントに転じた。選挙期間中は金の消費が減少する傾向があり、3月の需要が低迷した理由の一端が、間近に迫った総選挙であった可能性があります。
価格の高騰を受けて、18Kダイヤモンド宝飾品とカラー宝石を使用した宝飾品には一定の需要回復がありました。リサイクルも価格高騰に反応して増加しましたが、インドのような価格に敏感な市場ではごく一般的なことです。
需要は第2四半期も低迷しており、最高記録の更新が続く金価格が影響しています。アクシャヤ・トゥリティーヤとやがて訪れる婚礼シーズンに備えた在庫の積み増しは鈍化していると伝えられています。しかし、中国の小売の拡大が限定的なのとは対照的に、インドでは大手小売業者が拡大計画を堅持しており、積極的なマーケティングキャンペーンも続けている。季節要因が需要を金額ベースで支える可能性がある一方で、このセクターに関しては特に総選挙が影響する可能性が高いため、価格がさらに最高値を更新することになれば、金宝飾品の取引量は抑制されることになるでしょう。
トルコの宝飾品需要は8四半期連続で前年同期比プラスを記録し、需要量は19%増の11トンでした。トルコの宝飾品需要において、2015年以来最も好調な第1四半期となりました。ただし、需要量の増加は金額ベースに比べると際立ったものではなく、現地通貨の金額ベースでは史上最高の230億トルコ・リラまで大幅に増加し、昨年第1四半期の総額の2倍以上となり、前四半期の記録を19%上回りました。
この高カラット市場では、68%を超える公式CPI、世界的および地域的な地政学的緊張、マイナスの実質金利、実行可能な代替投資手段の欠如といった投資動機などが金宝飾品の需要を刺激し続けています。1
現時点では、こうした状況がいつ終息するか見通しは立っておらず、需要は引き続き堅調さを維持すると見られる一方、記録的な価格高騰が続いていることで、過去数四半期に見られた継続的で力強い規模の成長が抑えられる可能性があります。
今四半期、中東地域の宝飾品需要は前年同期比4%減の42トンでした。UAEとサウジアラビアの需要低迷がエジプトの改善を帳消しにしました。UAE(-10%)とサウジアラビア(-12%)で、前年同期比がマイナスになった理由は高金価格環境だったと伝えられています。対照的にエジプト(前年同期比+3%)では、IMFからの資金援助を取り付けたことで現地通貨が上昇したため、今期、現地金価格は下落しました。イランでは、国内金価格急騰の影響が、安全な避難先としての継続的な買いによって相殺され、需要は前年同期比で横ばいとなりました。
コロナ禍で高成長だった数年を経て、金宝飾品消費が「正常化」を続けてきたことで、米国市場は2%と若干の減少となり、8四半期連続で前年同期比がマイナスになりました。それでも、今四半期の需要25トンは、2020年以前の第1四半期の典型的な量と比較すると堅調であったと言えます(2010年~2019年の第1四半期平均は22トン)。また金額ベースでの需要16億米ドルは、ワールド ゴールド カウンシルの米国データシリーズにおける第1四半期としての最高金額でした。
米国の経済と労働市場の回復力が消費者心理を高め、それが需要を和らげることになりました。このことをさらに証明するのが、低カラット商品への明確なシフトが見られなかったことです。事実、現地からの報告によると、高カラット商品の売行きは相変わらず良かったとのことです。
業者間取引レベルでは、景気後退に対する懸念と予想外に好調だった第4四半期後半のクリスマス商戦とが相まって、昨年中に在庫が減少した後、今期に入って大量の補充がありました。後者は、昨年第4四半期の米国宝飾品消費データに(48トンから49トンへと)若干の上方修正が加えられたことの理由を説明しています。
今期の欧州宝飾品需要はじわじわと減少し、前年同期比2%減の11トンでした。米国同様、欧州の減少も、コロナ後の正常化が続いたことがその一因でした。消費者心理を損なう不安定な経済情勢の影響も助けとはならず、ドイツは最大の減少(前年同期比-11%)を記録しました。
タイ、ベトナム、インドネシアでも、今四半期後半の金価格の上昇で3月の需要が抑え込まれたことで、今期宝飾品需要は3国とも同じように、前年同期比で10%~12%の減少を記録しました。
タイの金宝飾品需要が前年同期比10%減の2トンとなった背景には価格の高騰があり、3月に価格が上昇し始めると需要が急激に落ち込みました。また、パンデミック中のレベルは下回ったものの、リサイクルが急激に増加しました。
ベトナムにおける今期の金宝飾品需要は、前年同期比で5期連続の減少を記録しました。需要は10%減の4トンで、第1四半期としては2015年以来の低水準でした。2月に、旧正月や財神の日の前後に若干需要が増加したが、金価格の高騰が大きな打撃となりました。
インドネシアは前年同期比12%減の5トンでした。金価格の上昇により、16Kや12Kなど低カラット宝飾品の需要が増加したと伝えられています。
日本は引き続き底堅さを示し、第1四半期としての金宝飾品需要は2019年以来最大となりました。需要は、前年同期比で7%増加し3トンを超えました。一方、現地通貨建ての需要額は前年同期比32%増の320億円となり、第1四半期としてはワールド ゴールド カウンシルのデータ シリーズにおける最高額となりました。
韓国の金宝飾品消費は前年同期比3%増の3トンとなりました。前年同期比としては2021年第4四半期以来の大きな伸びであり、3月の歴史的価格上昇にもかかわらず達成されました。
オーストラリアの今四半期宝飾品需要は前年同期比15%の減少でした。今四半期は、昨年の第4四半期とほぼ同じでした。消費者は依然として、厳しいマクロ経済環境による圧力を受けており、それが価格上昇とともに需要を損なっています。